宇尾地米人

或る夜の出来事の宇尾地米人のレビュー・感想・評価

或る夜の出来事(1934年製作の映画)
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アカデミー賞主要5部門を受賞したロマンティック・コメディの名作。キャプラ監督、ゲーブル、コルベールの立派な代表作に。どんな話か。結婚に反対する父親からお嬢さんが逃げ出した。婚約者に会うためニューヨーク行きの長距離バスへ乗り込む。そこで元新聞記者の男と出会い、些細なことで口論しながら後部座席に隣合う。それから2人、妙な縁が続いていきます。

互いの性格に呆れ合ったり、ときに感心し合ったり、忙しない男女旅を明朗快活に仕上げたシナリオ。親切だがなかなか気取り屋で男らしいゲーブルと、強情で世間知らずのご令嬢コルベールのやりとり。2人の共演をハラハラと可笑しく演出して見せるキャプラタッチ。宿のひと部屋をロープと毛布で仕切ってみたり、男のヒッチハイクで苦労していると、女の片脚のチラ見せで即座に車両を止めてみたり、今でも有名な場面を含めつつ、新婚夫婦のフリをしてみる男女の掛け合いが、愛らしい見どころの連続に。

2人の距離感も変わりつつある頃、河を渡るために、ゲーブルがコルベールを濡れないようにヒョイと担いでざぶざぶ歩いていく場面。「肩車なんて久しぶり」と嬉しそうなところ「これは肩車とは言わないよ」と返すところ。そのときの河の水面の輝きの綺麗さ。この輝きの中を楽し気にせっせと進んでいく、ああ映画はいいもんだなあと思わされますね。第一印象は酷かったのに、いつの間にやら、キャッチボールを楽しんでる。ラヴがうつろう面白さ。これもコメディ映画の面白さですね。現実だと、第一印象が悪ければ、もうずーっと悪いままですからね。悲しいもんですからね。

主演ふたりの素晴らしさは勿論、最後の最後、お父っつあんのウォルター・コノリーがまた粋な助演をしてみせました。最愛の娘に言ってやる台詞。距離が出来た娘とそのお相手を思って、どんな愛を見せたか。これも良い。最後までしっかり面白い。ということでキャプラ監督とロバート・リスキンのコンビが『一日だけの淑女』に次いで一躍有名となった代表傑作。ラヴコメディの名作です。もう90年近く前の作品になりますがDVDで観ても綺麗な画質で鑑賞できる一作です。
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