荻昌弘の映画評論

帰郷の荻昌弘の映画評論のネタバレレビュー・内容・結末

帰郷(1947年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

 軍医で出征されたクラアク・ゲイブル少佐が看護婦のラナ・タアナア中尉とあぶなくなるお話。残念なことに、少佐は故国に小っちゃくて可愛らしいアン・バクスタア夫人を残して来られたので、マサカ今更離婚という訳にもいかず、哀れタアナア中尉はラストで名誉の戦死という役割。フンガイにたえぬ。
 まあこの写真を見て、俺も(アタシも)戦争に行きてえ(行きたいわ)と考えるバカは流石のアメリカにも居まいが、こんなことになっても悪くはないネ(ないワ)ぐらいの甘ったるい悲劇感は起させかねない作り方をしてる所がミソなので、そこがうまい所だともいえるし、またチト困る点でもある。
 幸い話の語りっ振りがさほどお見事と言えず、妙にフラットで退屈だから、あまり血迷う奴も出まいが、万一ヘンに上手に作られたら罪も大きかったかもしれぬ。実際、アメリカは恋愛で兵隊を釣ってるなんて言われちゃ、迷惑でしょうからねえ。
 とはいえ、流石本場の本職の仕事だけあって、ツボを心得たルウティンの決め手は、いつもながら豊富なもの。例の通りの喧嘩相手に始まって、次第に二人の雲行き怪しく(甘い方にです)なり、ハタの目に立つ頃は既に it is too late というあたりのエピソオドのつみ方、別れてまた逢って、二人っきりで前線に放り出されて、ツイに……てなナレイションの手馴れには、鮮かならずといえどもやっぱりマネできぬ確かさがある。
 “スナップショット”ラナ・タアナアがひどく魅力的。人なつこさと男を見下す独善とをうまい工合にユニフォオムへ縫い込んでしまったこのチャキチャキした磁力は、どうにも疑いなくワックスの吸引効果充分である。
『映画評論 7(6)』