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多摩川少女戦争/girls・are・no・goodのTnTのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

 多摩川に惹かれて鑑賞。平均点低いから、全然期待していなかったが、全然面白いという。「この国は悪い女の子に甘すぎる」という台詞が出るように、悪少女たちが多摩川を舞台に生き生きする姿が描かれている。2001年の作品にしては、まだまだ90年代特有の臭さみたいのが残っていたが、それもまた味である。若き松重豊や平岩紙などの名優が見られる貴重な作品でもある。

 女性ばかりが出るが、決して美人ではない(失礼)役者陣。しかし、それでも台詞回しやら仕草に垣間見える少女性が面白い。女性を美によってではない魅力によって惹きつけている。どのキャラも漫画的すぎる感は否めないがやり取りが小気味良い。あっちからこっちへと引っ切り無しに動く彼女らを、絶妙なカメラワークとフレーミングで上手く収めている。その滑らかな演技の流れは見ていて心地よい。また脇役である警官も、麻薬をみつけて少女をビンタするまでの軽妙さと小憎たらしい演技がキマっている。あと細かいけどタバコの火をつけたジッポで誕生日のろうそくに火をつけたりする演出とかも小気味好い。あとはけろっぴという少女の死に様。いい音楽を聞いて、みんなでしりとり侍ゲームして、冗談言って死ぬ。まさに少女性に最後まで貫かれた生き様が、エモい(実際は、後で息を吹き返すのだが笑)。そんな感じで小気味良さと映画らしい演出が盛りだくさんだった。ハーモニカを吹かせるシーンとかは笑ってしまったが笑。

 映画らしい演出といえば、露骨なオマージュからも伺える。多摩川の土手を煽りでとって、人影がぞろりと出る黒澤映画オマージュ!または銃撃戦における「荒野の用心棒」のオマージュも!2000年代はだいぶドラマ的な演出が映画に入ってくる時代で、その中で古典中の古典を模倣する態度にシネフィル味を感じた。また、これは偶然なのかわからないが、2005年公開の井筒監督の「パッチギ!」は、今作品と非常に似ている。中国系日本人と日本人の対立を、川を挟んで戦わせるというのは、ほぼ同じプロットだ(今作品では、この対立自体は主軸ではないが)。川沿いは治安が悪いから、あらゆる対立を表現しうるのかもしれないが、似ていた。(後々調べたら、今作品の及川中監督は井筒監督作に脚本などで携わっており、相互に関係して作品も似ていったのだと思われる)。

 松前漬け切ってるヤクザに松重豊、しかもロリコンという曲者である。ヤクザなのにどこか間が抜けているのは、たけし映画っぽくて好き。ただ、たけし映画が男の子の映画なら、今作品は完全に女の子の映画だ。男女逆転版のたけし映画とでも言えるだろうか。女の子は死という名の遊戯をし、男はぞんざいに扱われる。たけし映画にある虚無感は無く、むしろどこまでもポジ的な雰囲気がある。死の恐怖に物ともしない明るさがあり、女子は無敵なのだった。

 ラストカットからのエンディングへの流れの粋さ。あのオルゴールのテーマが聴こえ、少女が振り向く。そこにはきっと、オルゴールの持ち主であるナオが立っているに違いないという粋な演出。オープニングでのナオの登場シーンの反復でもある。よい、どこまでも小気味好い。あと多摩川の風景が、とても良かった。
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