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チャップリンの殺人狂時代のandyのネタバレレビュー・内容・結末

チャップリンの殺人狂時代(1947年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

主人公アンリ・ヴェルデゥが捕まり、法廷での陳述の中で戦争の欺瞞を述べています。一人の殺害は犯罪者を生んで、100万の殺戮は英雄を生み出す。そして戦争もビジネスだと。

この作品は、戦争における大量殺戮のメタファーではありますが、無名の死者に名前を与え、死者の顔が見えるようにしてくれたと感じました。

ヴェルデゥが殺した人間の数など、戦争に比べれば僅かです。しかし、死者を数字でしか表現できない戦争は、逆にその悲惨さがリアリティを持たないように思いました。大量殺人のアマチュアであるヴェルデゥの方が、何の罪もない人々が殺されてしまう非情さを可視化してくれました。

35年間、銀行で真面目に働いてきたヴェルデゥに対して、不景気を理由に真っ先に馘を切られました。妻子ある身で家族を養っていくには殺人も致し方ない、「ビジネス」だと。馘を切られるのも「ビジネス」ならば正に負の連鎖です。

「ビジネス」だからなのか、ヴェルデゥが女性たちを次々に殺害していく事に全くと言っていいほど躊躇いを見せなかった。まるで次から次へと業務をこなしていくようなイメージを持ちました。本当にビジネスです。それを支えていたのが妻子への愛情だとは思うのですが・・・。

逆から言えば、戦争を遂行しようとすると、相手の持っている属性を剥がしていかないと邪魔で仕方ないという事です。
そして、その究極な形がホロコーストやヒロシマ・ナガサキだと思いました。
ヴェルデゥがそれに唯一失敗したのが、刑務所か出所したばかりの女性を毒薬の実験台として殺せなかった事です。彼女の持つ自己犠牲の哲学に共感したのでしょうか。もしくはヴェルデゥには彼女の本当の「顔」が見て取れたのかもしれません。故に、彼女に対しては「人間」の扱いをしたと思いました。

脚本はシンプルで、かつ足腰がしっかりしたような印象を持ちました。そのせいか最後まで飽きさせない作品だと感じました。

この作品もレット・パージの要因となり、チャップリンはアメリカから追放されます。
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