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チャップリンの殺人狂時代のTPのレビュー・感想・評価

チャップリンの殺人狂時代(1947年製作の映画)
3.0
★1987年に続き、2回目の鑑賞★

 端的に言うと、長年勤めてきた銀行から突然解雇された男が、車いす生活の妻と幼い子供を養うため、ハイミスの女性を言いくるめて金を引き出させて殺害し、その金で株式投資を行うが、大恐慌により一文無しになり、殺人犯であることを自首するという内容

 正直、どういう人物像を描きたかったのかが不明瞭。
 主人公ヴェルドゥはわずか3年の間で10人以上を殺害したという猟奇的な狂人なのだが、一方で妻と子供を愛し(と言っても描写は少ない)、身寄りのない女性には優しくするという善の部分の演出の深掘りが中途半端なので、主人公の内面の複雑さを表現しきれていない。
 本作のチャップリンは何を演じても喜劇王チャップリンでしかなく、30年間地道に銀行に務めてきた男という信憑性を全く感じられない。
 完全な喜劇にするのなら、妻と身寄りのない女性のシーンはいらないし、そうでないのならもっと人物像を掘り下げるべきだったのではないかと感じてしまう。

 とはいえ、後半部分のコメディとしての質はさすがという高さで、チャップリンの動作の切れも60歳前とは思えないほど。

 ラストの「1人の殺害は犯罪者を生み、100万の殺害は英雄を生む。数が神聖化する」というセリフが有名で、それだけを切り取れば製作年を鑑みると思い切ったセリフなのだが、この映画の中だけで考えると、多くの女性を殺害しておきながら彼女らに対する謝罪の念を感じさせずにこの言葉があっても何ら説得性はない。
 これが、主人公の生活に信憑性のある「独裁者」との大きな違いで、どうにも主人公に共感できないので、セリフの重要性は映画の内容と違うところで独り歩きしているのだと思う。
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