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シリアの花嫁のぴろぴろのレビュー・感想・評価

シリアの花嫁(2004年製作の映画)
4.8
重い話が決して重いだけでは無く、巧みで秀逸なヒューマンドラマ。 これは観て良かった。 舞台はイスラエル占領下のゴラン高原。 村の娘モナが写真で見ただけのシリアの人気俳優タレルに嫁いでゆく結婚当日のたった1日の物語。 花嫁の顔が暗く悲しそうなのは、花嫁がシリア側へ渡ると、二度とイスラエル側に入ることが出来なくなるから。 一度境界を越えたら、もう二度と愛する家族の元へは帰れないと分かっているから。 そこにある複雑な中東の歴史的背景、政治的背景。
政治的思想やメンツに自らを縛り付け、自らに境界線を引くかの様に凝り固まった男たちのプライドと限界。
老いた母親はただ見守るだけ。
しかし一方で自ら柔軟に人生を切り拓き、闘ってみせる逞しい次世代の女性たち。 写真でしか知らない相手の元に、相当の覚悟を持って嫁ぐという選択に、それでもそこには大きな希望があるからなのだろう。
花嫁の姉の人生、父と長男の確執等、ここの家には家庭内にも境界がある。 家族の背景が次第に観客にも分かって行く展開が秀逸。
「結婚はスイカと同じ 割ってみなければ分からない」という台詞があったが上手い事言う。 中東の諺か何かなのかな。
境界線に辿り着いてからも、国家間の威信に翻弄される両家の家族。 ここからがある意味「軍事境界線を越える」=「結婚出来る」のかどうか、見せ場でもある。 ウンザリするほど歯痒いのだが、それでも女たちは未来を信じ、決意と希望を胸にそれぞれの人生に勇気の一歩を踏み出して行く。 初めて見せた心からの笑顔と 凛とした花嫁の決意の背中に、ただただ祈るばかりだ。
国や宗教が違っても、家族を案じて幸せを願い大切に思う市井の人々の心に国家も宗教も国境も無く、私達と同じだからこそ胸に響く。 緊張感の中の次男の隙っ歯とチャラ男加減、流れる音楽も良く、短いながらも興味深い映画だった。
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