いなだ

やさしい女のいなだのレビュー・感想・評価

やさしい女(1969年製作の映画)
-
ドストエフスキーの原作小説(自分が読んだのは全集収録、米川正夫訳の「おとなしい女」)を読んで名状しがたい衝撃を受けたので、最初は原作との違いを気にしながら観ていたが、だんだん「映画」に入り込めた。
小説は主人公の男目線の回想なので、心情がとても詳しく語られるが、この映画も男目線でありながら演劇や映画、絵画、本の引用によって場面がつくられ、また、動物園の猿を見る、カーレースが流れるテレビのボリュームを上げる、花を捨てるシーンなど、視覚的に面白がれるつくりになっているなと思った。小説と映画という媒体の違いで、温度感や伝える情報がだいぶ異なる。そしてやはり自分は女の心情の変化がよく読めないままだったが、主人公の男もそうなのだろう、それで男は勝手に1人で動いているような気もする……夫婦生活という2人で長く過ごしていく人生設計において、肩肘張ったエゴイズム、みたいなのは邪魔なのか。映像によって男の姿が映されることで、男によって物事の全てが語られる小説よりも客観視ができて、二人のズレ、とか流れる空気の冷たさみたいなのは感覚的に感じやすかった。ごく初期の幸福を象徴する2人が笑い合うところは笑顔を見せない、声だけ。
ラストに繋がる冒頭の描き方が画面が整理されていながらも鮮烈で良い、ビジュアル的な意味での男と女の配役もしっくりきた。「ハムレット」の演劇を映画内であんなに長く見せた意味、とか、何回も観て意図を考えられそう。

歩く靴音は注意を引き、レコードがかかった時の大きな音は観ている自分を撥ねつける気がする。
いなだ

いなだ