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警視庁物語 自供のcatmanのレビュー・感想・評価

警視庁物語 自供(1964年製作の映画)
4.0
1964年公開。シリーズ23作目(全24作)。ノミ屋の死体が上がったドブ川の現場から刑事達が捜査本部へ戻って来ると、職員が部屋に電話線を引いている。林刑事(花沢)がコートを脱ぎながら「さぁて、今回はこの部屋に幾んちお世話になりますかねぇ」なんて言うと、主任(神田)が「あぁ?ハハ」と気の無い愛想笑いをしながら椅子にゆっくり腰を降ろしてタバコを口にする。特にどうってこと無いシーンなんだけど、こういうオヤジ刑事達の日常を描写するさり気ない演出が大好き

本作でも事件の背景に高度経済成長に取り残され苦境にあえぐ人たちの生活が描かれる。売血するために貧困層が大勢詰めかける血液銀行の場面はインパクトが強くて、「オバさんの血は薄いから買えないよ!どうせ他所と掛け持ちしてるんだろ?」なんて言う受付員のセリフがあったり、血を濃くするために一時的に腕を止血する「縛り屋」なんてのも居たりして、「血と愛情は濃くなきゃいけねぇからなあ」なんて調子の良いことを言っている。演じるのはシリーズ常連の潮健児。この人は胡散臭いキャラがよく似合う。後の地獄大使(仮面ライダーV3)ですけれども。常連と言えばこちらも端役専門の谷本小夜子。聞き込み捜査の対象になる事が多く、今回も出演時間は僅かながら庶民的なキャラ作り(と顔立ち)に個性があるので印象に残る。良い役者。それと過去作ではダークサイドの人間を演じることが多かった今井健二が本作で初めて刑事役に抜擢されていて、これまでロクデナシの役ばかりやらされていただけに応援してあげたい気持ちになる。もともと男前だし。今井と組んで後楽園の場外馬券売り場で参考人を探す渡辺刑事(須藤健)、相対的に活躍の場は少ないけどアフレコで際立つバリトンボイスと台詞回しが良いなあと改めて感心。推しメンの金子刑事(山麟)は、ブン屋との軋轢シーンにちょっとした見せ場があって面白い。「気を付けないとあんな赤新聞には何を書かれるか分かりませんねw」なんて言ったり、被害関係者の心情を思い遣らない取材に憤って声を荒げて記者と直接揉み合うシーンも。ラストでおセンチになってうつむきながら机に「の」の字を書く姿には笑ってしまう。

監督はシリーズ初起用の小西通雄という人で、最後の自供シーンはセットが暗転して中央にスポットライトが当るなどドラマテイストが強め。戦後の満州から這々の体で引き上げる様子を回想するシーンは大勢のエキストラを起用した珍しく大掛かりな撮影。自分はやっぱりこうした劇的な演出よりも初期の乾いたドキュメントタッチの方が好みだな。とはいえ親子の絆と友情が胸に沁みる感傷的なラストにはちょっとグっと来てしまう。編集のテンポが良く無駄のない58分。
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