櫻イミト

斬殺せよ 切なきもの、それは愛の櫻イミトのレビュー・感想・評価

3.5
民族派右翼のカリスマ野村秋介の企画による人間ドラマ。ニ.二六事件を背景に老いたヤクザと娼婦たちの生き様を描く。若山富三郎の最後の主演作。

昭和10年、新宿二丁目の遊郭・昭和楼に田舎娘の千代が売られてくる。一方、この辺りを仕切るヤクザ組長・定吉(ビートたけし)の元に兄貴分の直次郎(若山富三郎)が久々に顔を出していた。直次郎はふとしたことから出会った近衛歩兵隊中尉の丹下から、郷里で将来を誓い合ったセツという娘を捜していると聞く。セツは昭和楼の稼ぎ頭だった。。。

予想以上にしっかりと出来ていた。民族派右翼の美学が込められていたと思う。新右翼の知識のない人が観たら、ちょっと変わった任侠映画と思うだけかもしれない。

底辺を生きる人々のルサンチマンを丁寧に描くことで、皇道派青年将校たちによる武力テロ「ニ.二六事件」の正当性を訴えている。それは、新右翼の用いる言葉「肉体言語」「直接行動」の有効性を表すことであり、比較として、理想を口にするだけで何もしない左翼学生を登場させている。

イデオロギー的には正反対の立場である若松孝二監督が、1970年前後に連作していた左翼テロ映画と作品への思想の込め方は同じと言える。奇しくも本作と同年に若松監督が作った「われに撃つ用意あり」(1990)は現代のルサンチマンを描いていて、その美学の根っこは同じに感じる。「ニ.二六事件」を語るにはもっと勉強が必要なので置いておくが、本作の描く反権力の精神には共感した。

本作のニ年後に若山富三郎は62歳で亡くなった。翌1993年、野村秋介は朝日新聞東京本社で「皇尊弥栄」を三唱し拳銃自決した。58歳没。

※監督の須藤久は評論家で自主映画監督。晩年の野村秋介と共に”新浪漫派”を名乗っているので右派の印象が強い
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