垂直落下式サミング

モスラ対ゴジラの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

モスラ対ゴジラ(1964年製作の映画)
5.0
日米合作の『キングコング対ゴジラ』がうまく行ったから怪獣バトルをやらせましょうとなった作品。しかし、主役怪獣同士を戦わせるストーリーは、引き続き手探りな雰囲気。
幼少期、おばあちゃんがVHSに録画してくれた作品のひとつ。僕のゴジラに対するイメージは、ほとんどこれと『南海の大決闘』と『怪獣総進撃』によって形作られた。
だから、僕の中心にあるゴジラ像は「はた迷惑だけど憎めない動物」なので、ガチ勢の人たちからしたらぬるま湯もぬるま湯のファン。「核兵器の落とし子」みたいな設定は、そこそこ知恵がついてから知りましたし。
シリーズが続いてくなかで、いちばんの傑作は1954年のオリジナルだってのは、異論ないんだけれど、それもわかった上で、愛着が持てるのは、こういうヌルいゴジラのほうなんですよ。そりゃあ、核だ戦争だエコロジーだとメタファーを解読することはいくらでもできるけど、深刻になりすぎもよくない。ただ、楽しむものとしてのゴジラだって、間違いなくコンテンツの一側面なんだから、そう否定するものでもないっすよ。
『モスラ』の世界観を取り込むことで、ゴジラは完全に怪奇ものからの路線変更に成功した。モスラの神出鬼没さ、小美人の合成っぽさは、むしろその存在のファンタジックさを強くしている。
もう一回見返したら、けっこうコメディー色が強い。昔は真剣にみてたのかぁ。子供ってものは感度が高いですね。ホントにかわいい映画ですよ。教訓とか、小匙イッパイくらいで。一応、道義を欠いた利益追求への批判と、自然第一主義みたいなのはあるけど、軸足がエンターテイメントなのがいい。
ゴジラが埋め立て予定の湾内の海底で寝てたせいで生き埋めにされて、土まみれで起き上がってきて人間たちにキレる!いきなり笑えるスタートでバトル開幕。埋め立て着工からずっと寝てるとか、ニートじゃん。
土の中から出てくるため、ぬいぐるみ全体でキメの細かい砂ぼこりをかぶっていて、めっちゃ汚いの、よく覚えてる。泥んこのゴジラと呼んでた。モスゴジは、目付きは悪いのに眉毛みたいなのがあって、目玉はきょろっとして可愛い。
戦闘シーンもけっこう笑える。成虫モスラと戦うところで、早送りで引きずられるところとか、珍プレー好プレーみたいで笑っちゃったんだよな。
幼虫モスラに尻尾の先端に噛みつかれたゴジラが、うぎゃーうぎゃーと痛がるのも今みると面白いけれど、子供のころは大緊迫のアクションシーンだった。
ふり払われたモスラが、地面に変な落ちかたするのとかも、本当に心配で心配で…。お腹から落ちて、ぐにゃっとくの字に曲がるんですよ。普通の虫の幼虫だったら、サナギに変態できないレベルの重大損傷だと思う。
あと、もうひとつ言及しときたいのは、添え物程度のドラマ部分にもしっかりと血が通っているということ。序盤で、チョビ髭オヤジ政治家や土建屋の社長とかが意地悪で威張っててイヤな感じで出てくるし、途中で醜いオトナが金絡みでする取っ組み合いのけんかをみせられるけれど、おなじ戦後オヤジでもちゃんとした人はいる。
優しそうな見た目のオヤジが、ゴジラの被害にさらされ瓦礫の下敷きになってしまったのに、助け出されるやいなや島に取り残されている子供たちの身を案ずる発言をするところは、かなりぐっと来てしまった。
セカイの猪四郎のヒューマニズム。人の世は、まだらの斑点模様。真っ黒けの悪人がいれば、ちゃんとした善人もいる。そう簡単に白だ黒だと決めつけられるものではないんですよ。