クロスケ

リアリズムの宿のクロスケのネタバレレビュー・内容・結末

リアリズムの宿(2003年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

【再鑑賞】
はっきり言って、大好きな映画です。画面のトーンも流れる時間も登場人物たちの言動も共感しかなく、鑑賞中、終始自分自身を見ているような気分になりました。

どこか山下監督と共同脚本を担当した向井康介自身を思わせるキノシタとツボイ。その二人が微妙な距離感を保ちながら、寒々とした日本海沿いの町を彷徨い歩く。そこへ何処からともなく現れたアツコが加わることで二人の距離に微妙な変化が起きる。唐突にアツコが去った後も、彼女の影のようなものが二人の距離の間を静かに埋め合わせる。

当てもなく漂流する彼らを見ていて、ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を思い出さずにはおれませんが、本作と『ストレンジャー〜』に登場する男女3人は何処にも行き場のない浮遊者です。いや、正確に言うと本作の3人には行くところもあるし、帰る場所もあります。キノシタとツボイはたまたま鳥取へやって来ただけで、東京に帰ればそれぞれの生活が待っていますし、アツコもいつの間にか普段の高校生の姿に戻っています。
しかし、3人がふと顔を合わせることで、たちまち本来帰るべき、行くべき場所が彼方へと忘れ去られ、奇妙な共同体となって世界から切り離されたかのようにポカンと浮遊しているのです。
そのまったりとした時間が、何とも心地良い。

ラストシーン近く、彷徨い歩くキノシタとツボイが街角に佇むアツコと一瞬視線を交わす。控えめな感じで小さく手を振るアツコ。微かに微笑む二人。偶然にだけど、出会うべくして出会った3人の幸せな時間が最後に再び訪れます。それまでの暗くて湿った旅路はこの瞬間のためにあったのだと、こみ上げてくる涙を堪えることが出来ませんでした。
クロスケ

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