彦次郎

湯殿山麓呪い村の彦次郎のレビュー・感想・評価

湯殿山麓呪い村(1984年製作の映画)
3.9
湯殿山麓に眠る幽海上人の即身仏発掘に執着する大学講師滝連太郎が連続殺人に巻き込まれるミステリーサスペンス。原作は山村正夫で多数の作家を育てた指導者としても有名らしいですが個人的にはトリック本の著者として名を記憶しています。これは古今東西のトリックをクイズにした本でネタバレ集以外の何物でもなく(問題もダイジェストなので元ネタが分かる)今なら炎上しそうな案件です。なぜこんな前置きを書いたかというと本作が密室トリックなど不可能犯罪を取り扱ったミステリーということでその知識を基にしたであろうと推察されるからです。ただし普通の本格ミステリーとは違う点がありそこが本作の特色です。
登場人物たちが一癖あるのはミステリーの常ですがほぼ全員が罪があるか、クズかクソのような人間性かというのはさすがに斬新すぎます。主役である滝は妻子ある身ながらも不倫しておりその不倫相手の父親に発掘のスポンサーになってもらおうと考えているうえ「娘と別れたら金出してやる」と言われたら即断する金・名誉・性欲の権化のような非常に見苦しい男で視聴者としても共感しがたいです。地位・金を失っても調達しようとあがいたり「情死しましょうよ…」からの「冗談じゃねえ」と薬の効いた猛火状態から脱出を果たすしぶとさ、探偵として殆ど活動しておらず欲望に執着しているだけに見えて実は事件の真相を見抜いていたという読者を驚かせる探偵役というのは当時としても珍しかったのではないでしょうか。
不可能犯罪のほうは考え込まれているのに終盤に発生する殺人は雑というアンバランスさ、前半が遅いし分かりにくいのでイラつくという欠点がありますが、”探偵・滝連太郎を主人公とする伝奇ミステリシリーズ第一作でもある。”(wikipediaより)という前置きを知っていると終盤が衝撃的すぎるのでバランスはとれていたのかもしれません。
おどろおどろしいミイラや不気味な手よりも被害者たちが洞窟で母娘監禁連続凌辱している田舎犯罪のほうが怖かったです。畳みかけるような不条理と悲惨な終盤には人間の持つ暗黒面が表現されており本格ミステリーというよりは人間ドラマとして機能していたと思います。
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