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オテサーネク 妄想の子供のtigerpantsのレビュー・感想・評価

オテサーネク 妄想の子供(2000年製作の映画)
3.9
チェコ・アニメ界の重鎮、ヤン・シュヴァンクマイエルの2000年作をアマプラにて(約20年ぶりの)再見! 餡子がみっちり詰まったたい焼きのような作品。

不妊に悩む夫婦が主人公。療養で訪れた別荘の庭で、夫は赤ん坊のような形をした切り株を発見し妻に見せると、彼女はそれを息子と思い込んで溺愛、アパートに連れ帰る。「オティーク」と名づけられた切り株には好きなだけ食べ物が与えられ、やがて〝それ〟は自らの意志で動き出し、猛烈な食欲であらゆるモノを食べ尽くす。恐くなった夫妻は、アパートの地下室にオティークを閉じ込めるが、異変を勘づいた隣家の娘が(まるで実の弟のように)面倒を見るように。しかし十分な食料を持ってこれなくなった娘は、アパートの住人を〝エサ〟として選ぶように……。

チェコの民話「オテサーネク(食人木)」を下敷きにした長編映画で、文字どおり〝人を喰らう木の人形〟が登場。人間特有の欲望……食欲、性欲、支配欲、庇護欲、etc...や暴走気味の妄想を、実写と絵とアニメーションを融合させて描く。

監督の作品に馴染みがない観客は「何を見せられているのか?」とか「醜悪だ!」とか「気持ち悪い」とか思うかもしれないが、そもそもヤンの世界観はシュールでナンセンスでグロテスクな描写(躍動感のある絵、カクカクした動きのストップモーション・アニメ)が持ち味。

アパートの住人のひとりである、ペド老人の佇まいは〝やりすぎ〟ギリギリ! 食事のシーンが「美味しそうに見えない」のも、ヤンの映画のディフォルト。アップショットも含め、生理的嫌悪のギリギリを攻めているが、これでもだいぶ洗練された方である(先行配信の「短編映画集」の中には、もっと毒々しいのも!)

並み居る女性キャラの「母性(保護欲)の暴走」に依拠しすぎでは……と(今だったら)難癖つけられるかもしれないが、寓話的なタッチも含めて、愛すべき怪作。
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