ほーりー

彼岸花のほーりーのレビュー・感想・評価

彼岸花(1958年製作の映画)
4.2
小津映画ってほとんどが家族がテーマだし、セットも設定も似ているし、一見すると同じ映画のように見える。

特に本作や『秋日和』『秋刀魚の味』と立て続けに観るとデジャヴを感じるというか、どれがどの作品だっけと頭がこんがらがってくる。

でも、家族の心の機微を描いて神妙な気持ちにさせつつ、思わず噴き出してしまうようなギャグもぶつけてくるこの頃の小津映画はホント侮れないと思う。

小津監督初のカラー映画『彼岸花』。 アグフア社製カラーフィルムの深みのある発色が素晴らしい。

そして有馬稲子、久我美子、山本富士子の50年代を代表する美人女優が勢揃いした作品でもある。


旧友(演:中村伸郎)の娘の結婚式に妻(演:田中絹代)と共に出席した会社重役の主人公(演:佐分利信)。

自身も年頃になった娘(演:有馬稲子)を抱えていて、そろそろ娘にも縁談をと考えていた。

そんな折り、突然会社にやってきた若者(演:佐田啓二)から娘との交際と結婚を認めてほしい旨を伝えられて衝撃を受ける。

娘からそんな話を全然聞かされていなかった彼は憤慨して結婚に反対してしまう……。

という小津お馴染みの娘を嫁がせる父親の心境を描いた作品である。

面白いのは、佐分利が自己矛盾のあるキャラクターであるということ。

佐分利の知人(笠智衆や浪花千栄子)の娘たち(久我美子や山本富士子)も自身の親から勧められた縁談を嫌がって飛び出しており、佐分利は彼女らから相談を受けると「結婚は個人の自由だからね」と肯定するのだが、いざ自分の娘が同じ状況になると頑として結婚を認めないのである。

その辺りがのちのスタンリー・クレイマーの『招かれざる客』と内容がよく似ていると思う。

『招かれざる客』も今まで客観的に判断できていた事柄が、いざ自分も当事者になると急にできなくなってしまう夫が主人公の映画だった。

ちなみに冒頭に書いた『彼岸花』『秋日和』『秋刀魚の味』の三作品がどれも同じように見えるのは、中村伸郎、北龍二、高橋とよが三作品とも同じ役柄だからである。

特に本作と『秋刀魚の味』は役柄の苗字まで同じだったはずである。

いずれの作品も中村と北と主人公(佐分利信か笠智衆の違い)の三人が居酒屋で昔話や猥談をして、そして女将役の高橋とよでサゲをつけるというルーティンギャグになっている。

ギャグといえば佐分利の部下役を演じた高橋貞二が可笑しかった。

誠実な印象の佐田啓二とは真逆のがらっぱちのキャラクターで、佐分利に連れられたバーがたまたま自分の行き付けの店で、気まずさから挙動不審になる姿に笑ってしまった。

あと劇中、山本富士子の口からトリックという言葉がでてくるが、同年には松本清張が発表した『点と線』『眼の壁』がベストセラーとなり社会派推理小説ブームが起こっている。

この辺りも流行りものはすぐ取り入れる小津監督らしさが感じられる。

そして終盤の蒲郡での同窓会で、佐分利をはじめ、中村伸郎、北龍二、笠智衆、菅原通済、江川宇礼雄らが『青葉茂れる櫻井の』を合唱するシーンが堪らない。

■映画 DATA==========================
監督:小津安二郎
脚本:野田高梧/小津安二郎
製作:山内静夫
音楽:斎藤高順
撮影:厚田雄治
公開:1958年9月7日(日)
ほーりー

ほーりー