シネマノ

カップルズのシネマノのレビュー・感想・評価

カップルズ(1996年製作の映画)
4.0
『あの時代の台湾が永久になる。狙いすましたラストシーンまで駆け抜ける青春の物語』

劇場でのマイベスト映画鑑賞体験のひとつ【クーリンチェ少年殺人事件】。
それを生み出したエドワード・ヤン監督が”クーリンチェ後”に撮った本作。
キャスト陣も含めて、それはまさに並行世界線の先に生まれたような青春映画だった。

舞台はバブル経済終期の台北。
悪名高い実業家を父にもつレッドフィッシュ。
ハンサムで女を手だまにとるホンコン。
占いと称して誰をも騙せるトゥースペイスト。
そのコミュニティに新しく入ったルンルン。
まだ若い4人組が行う「よくないビジネス」がもたらす事の顛末を描く。

やはりエドワード・ヤン監督は、人、時代、その光(過去)と影(未来)を描くのが抜群に上手い。
ナレーションも、キャラクターの説明的な(心情含め)語りもない。
淡々とそこに生きる人達の言葉と行動を映し出しているだけなのに、それ以上の情報と物語が流れ出してくる。
だからこそ、観ているこちらは神の視点のような俯瞰で、それでいて当時の台湾へとぐっと入り混んでいけるのだろう。
物語の背景や余白、キャラクターの背景を観ている自分のなかで補って味わえるのが大きな魅力。

そして、そんな背景や未来をそれとなく補って(予感して)しまえるのは、主要キャラも同じ。
バブル期の乱反射する希望(欲望)の光を知りつつ、それとなく未来の自分たちに待ち受ける影を悟っている。
だからこそ、ヒリヒリするような刹那の青春を駆け抜ける。
この映画の中と映画の外のシンクロが、キャラクターへの愛着を生む。
要するに、どの登場人物も魅力的で”キャラが立って”いる。

”勘の鋭い”少年たちは、女だろうが誰だろうが構わず餌にして、ナイフのように日々を切り裂いて生きる。
四方八方をズタズタにしているようでいて、自分たちの可能性も希望も、そして心もズタボロにして生きている。
その4人にフランスからやってきた美女・マルトが風を吹かせる。
その風は誰にとっての追い風で、逆風であろうか。
いや、風を巻き起こすマルトが泣く(鳴く)とき、誰が気づくであろうか。
大きな山(ヤマ)が動くとき、ドラマはそれぞれの結末(終局)に向かって走り出す。

ヒリヒリするような青春ドラマに、エドワード・ヤンが用意したラスト。
そのずっと狙いすましてきたような見事なアガリで、”あの時代の台湾”は永遠に。
青春(人生)の余韻が観ている自分の心にも残り続ける。
シネマノ

シネマノ