櫻イミト

ダロウェイ夫人の櫻イミトのレビュー・感想・評価

ダロウェイ夫人(1997年製作の映画)
3.0
英小説家ヴァージニア・ウルフの代表作「ダロウェイ夫人」(1925)の映画化。

1923年。ダロウェイ議員の夫人クラリッサは50歳を過ぎた上流階級の女性。この日は唯一の楽しみである自宅パーティーの準備をしながら、ふと青春時代の恋と友情を思い出していた。一方、同じ町に暮らす退役軍人の青年セプティマスはPTSDに苦しんでいた。。。

夫人の現在と過去、そして悩める退役軍人と、3つのストーリーが並行して描かれていた。夫人は青春時代の思い出に黄昏れているだけでドラマティックなことは起こらない。彼女のうつろいの物語に死生観を落とし込む道具として退役軍人が配置されていた。個人的には夫人が俗物にしか感じられず(友人にはならないタイプ)いまいちノレなかった。

良くも悪しくも純文学の映画化を感じさせる一本だった。エンターテイメント性よりも人生の機微の描写に力を入れている。ただ、内面の心の動きをモノローグで説明する演出が特にクライマックスで多用されるので、映画作品としては微妙に感じた。

「ダロウェイ夫人」をモチーフにした小説&映画「めぐりあう時間たち」(2002)の構造とテーマが、本作を観たことでさらに理解出来た。

※原作はヴァージニア・ウルフが42歳時の執筆。当時ウルフは10歳年下の著述家ヴィタと同性愛関係になっていた。本作には自身への否定と弁護が反映されているように感じられた。
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