半兵衛

手討の半兵衛のレビュー・感想・評価

手討(1963年製作の映画)
4.0
田中徳三監督は『悪名』や『兵隊やくざ』、大映を辞めた後はTV時代劇と娯楽作品をメインに活動してきた監督だが、本来は溝口健二や黒澤明、市川崑など巨匠たちの助監督を務めた人物である。そのため時折巨匠譲りの風格ある演出が顔を覗かせたりする瞬間はあるが、内容が娯楽である以上中々いかしきれない印象があった。

しかしこの作品ではそうした風格ある演出が『番町皿屋敷』を元にした悲恋ドラマをより崇高なものにし、見る人の心を打つ。江戸初期における旗本の状況を巧みに組み込んだ八尋不二の脚本も上手く、主人公の青山播磨(市川雷蔵)が平和になり自分達が閑職となっていく状況が身分の低い女性を好きになった彼の状況をより苦しいものにさせていく。こういう世間と自分の内面のギャップに苦しむ役柄は雷蔵にぴたりとハマる。

同じ旗本仲間で切腹に追いやられる若山富三郎、旗本のリーダー格で亡くなる間際に自分達の時代が終わることを語る菅井一郎、雷蔵に時代が変わっていくことを告げる上役の柳永二郎、加藤嘉とキャスティングの配置も完璧。そしてヒロインを演じる藤由紀子はあまり時代劇慣れしていないが、それがかえって他の時代劇の女優とは違った美しさを際立たせ、悲劇のヒロインにふさわしいキャラに仕上がっている。

あまりアクションのない作品ではあるが、若山富三郎の切腹シーンや馬の暴走など要所要所でインパクトを残すシーンを入れてお客を飽きさせない語り口も見事。ラストの美しさも悲恋物語を荘厳に締める。
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