よーだ育休中

ハート・ロッカーのよーだ育休中のレビュー・感想・評価

ハート・ロッカー(2008年製作の映画)
3.0
イラク戦争の只中、過激な武装集団によって市街地の至る所に仕掛けられた爆弾が猛威を振るっていた。バグダッドの路上で殉死した米軍爆弾処理班長に代わり赴任してきた一等軍曹は、腕は一流ながらも危険を顧みないアウトローだった。


◆低予算ながら臨場感溢れる映像

冒頭のシークエンスでグッと作品に引き込まれました。慎重に慎重に、いつ起爆させられるかわからない爆弾を処理するために、遠隔ロボットで処理を進めようとする爆弾処理班たち。軽口を叩きながらも、眼光は真剣そのもの。緊張に当てられて現実から目を背けてしまった技術兵さえ生々しい。ロボットに搭載されたカメラや、POV風の映像。起爆時の衝撃を十二分に伝える演出。短いカットながら多くの工夫が凝らされた、非常に印象深いシーンでした。

冒頭のシーンのみならず、車載爆弾や人間爆弾(これは二パターンも用意されていて、どちらもショッキング!)。爆弾以外にも砂漠での狙撃合戦から緩衝地帯で夜間に発生したテロ行為まで。引き出しが多くて二時間弱の尺を感じさせないテンポ良さ。トントンと場面が展開されていった印象を受けました。


◆WAR is a DRUG.

〝戦闘での高揚感は時に激しい中毒となる〟という合衆国ジャーナリストの言葉を引用して幕を開けた今作。

今作で主演を務めるJeremy Rennerは、確かに〝何処か気が触れてしまった様な狂気を感じる漢〟を熱演していました。爆弾処理の技術は800個以上に及ぶ大量の爆弾を処理した経験に裏打ちされたもので、後からついてきたもの。特別な才能や特殊能力を持ったヒーローなどでは決してありません。

自らの命を顧みずに、仲間の危険を意に介さずに、ただひたすらに死地へと赴く。そこには《高揚感》などと云うものは微塵も感じませんでした。其処に在ったのは《贖罪と後悔》であったように感じます。

祖国に残した妻と幼い我が子への罪滅ぼしなのか。戦地で目にした痛ましい死への償いなのか。心が擦り減って、感情は麻痺して、最後に残った強迫観念の塊を見せつけられた様でした。戦争が麻薬と云うのなら、高揚感を与える事ではなく、理性を奪い去る事が共通項であると感じてしまいます。

ラストシーンも衝撃的。果てのない戦いに身を置く主人公は確かに《戦争に依存》しているように見えます。2011年に集結したイラク戦争。集結の時、無鉄砲な彼は存命だったのでしょうか。仮にそうだったのであれば、戦争を無くした彼はその先をどのように生きていくのでしょうか。この続きは考えたくありません。