たく

罠のたくのレビュー・感想・評価

(1949年製作の映画)
3.8
ボクシングの八百長試合の裏でうごめく男たちの欲望をよそに試合に立ち向かう老ボクサーを描いてて、短い時間の中で緊迫した運びに引き込まれた。上映時間がそのまま劇中の時間進行と一致するのは、アニエス・ヴァルダの「5時から7時までのクレオ」とかあったね。「ウェストサイド物語」「サウンド・オブ・ミュージック」のロバート・ワイズ監督1949年の初期作で、人物の表情を克明に捉えた心理描写と、ボクシングの打ち合いの迫力が秀逸。孤独なボクサーと妻との試合後の抱擁は、まさかの「ロッキー」の元ネタかと思わせた。

活気あふれるボクシング会場で次々と対戦が繰り広げられる中、100試合負け続けのストーカー・トムスンが八百長試合の駒にされ、彼のマネージャーがどうせ勝てないと思ってあえて八百長を知らせないことが仇となる。ストーカーの妻が心配して夫の試合を正視できないというのが良くある図式で、男のプライドから本気で勝ちに行こうとするストーカーと、彼の負け試合を観たくない妻の葛藤が並行して描かれていき、試合開始のゴングからの壮絶な殴り合いが手に汗握る。

最後にストーカーが拳を潰されることで妻の目論見達成ってところは「しのび逢い」や「ファントム・スレッド」と同じで、夫婦愛のほっこりさせる結末に思えて実は女の怖さを描いてるように思える。これはこないだ観た「マンティコア」にも共通してたし、こういうジャンルは昔からあったんだというのが感慨深い。冒頭でUFOキャッチャーみたいなゲームが出てきて、クレーンゲームってこんな昔からあるんだと驚いた。主演のロバート・ライアンは「ワイルドバンチ」「追跡者」などいろいろ出演作を観てた。妻役のオードリー・トッターは「湖中の女」に出てたんだね。
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