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髪結いの亭主のhasseのレビュー・感想・評価

髪結いの亭主(1990年製作の映画)
3.8
演出4
演技4
脚本3
撮影4
音楽4
技術5
好み3
インスピレーション3

幼少時代に床屋の女性店員に惚れ、中年になって床屋の店員と結婚した男の愛と幻想の物語。男は妻マチルドをもちろん愛していたと思うが、幼少時代の幻想を通して愛していたように思う。だから二人の夫婦関係は深まることもなく、幻想が幻想のままでいられるうちに、マチルドは男のもとを去って命を絶ってしまう。ラスト、散髪の客に「妻が帰って来ますから」と待たせる男の姿が切なすぎる。長すぎた幻想の終わりのさきに、未来などあるのだろうか?

いわゆる「おしゃれなフランス映画」の典型みたいな語りや演出で進めながら、頭のおかしいシーンをバンバン積み重ねていくのは好き。マチルドを見初めるシーンとか神様降臨みたいな光の当てかたして笑ってしまう。花嫁姿で駆け込みの客の髭を剃るシーンとか、アルコール液をオーデコロンで割って飲むシーンとか、世界広しと言えどもこの映画くらいだろう。アラブ系の曲に合わせた、男の自己流キモキモダンスは、慣れるかなと思ったが最後までキモキモだった。

前半がそういうヘンテコなシーンで楽しめたが、結婚後の後半は割りと落ち着いてきたのでもの足りず。真面目な恋愛映画として観たらそれこそオシャクソフランス映画で終わっちゃうからね。

静かで、明るい日射しの差し込む床屋で、ハサミを動かす小さな音、洗髪の音だけが聞こえる空間のショットは最高だった。最高の映像つきASMR。そして、綺麗な美容師さんの胸を意識しちゃうのは、変態主人公のみならず、全男性のあるあるでしょう。

主人公が幼少時代に惚れる店員がマチルド的なモデル系じゃなくてフェリーニ的大女なのがいい。主人公がフェチまみれの変態に育った説得力と郷愁が倍増する。
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