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にがい米のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

にがい米(1948年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

悪党のワルターと情婦のフランチェスカは首飾りを盗んで、警官に追われる。フランチェスカはトリノの駅から水田地帯に向う出稼ぎの田植女の群れに紛れ込むことに成功する。 彼女はその農婦達の中に居たシルヴァーナという女と知り合うが…。

題名から貧しい農村の悲劇を連想するが、内容はクライム・サスペンス。
しかし、それ以上に生きるためになりふり構わぬ逞しい女性たちの姿を描いた秀作である。

たくさんの女性が一斉に田んぼで田植えをするシーンは圧巻。
田植えの仕事の辛さを和らげようと、明るく田植え歌を歌いながら、女たちはスカートを腿の上までたくし上げ、懸命に田植えをする。
男たちの視線や日焼けなどまるで気にせぬ大らかさ、そしてむせかえるような色気が画面に充満する。

前半は働く資格を持つ女たちと、フランチェスカのようなモグリの女性たちとの悶着から始まる労働争議と、恋の鞘当てが描かれる。
女たちが平等に働けるよう話をつけたマルコ軍曹の男らしさにフランチェスカは惚れるが、マルコは若く豊満な肉体のシルバーナに惹かれる。
夜になると女性宿舎の高い壁を女性たちが越えて、男たちとパーティーが繰り広げられる。
その奔放な性がまたエロティックだ。

そこでシルバーナのセクシーなダンスが男たちの視線を釘付けにする。
このシーンでのシルバーナ・マンガーノの脇毛の破壊力たるや!
18歳のデビュー作だが、その野生的なフェロモンにワルターとマルコが彼女を奪い合って喧嘩するのも無理はない。

ある雨の日、シルバーナはワルターに犯される。
直接的なレイプの描写はないが、豪雨の中で狂ったように泣き叫ぶ姿は処女を汚された悲しさを想像させる。
その後、愛していると囁かれ、「初めての男」の言いなりになるとは、現代では考えられない律儀な操立てだ。

ワルターは倉庫から米を盗もうと計画し、シルバーナはそれに加担。
祭の準備の裏で、シルバーナは水路の堰の板を外して田んぼを水浸しにする。
稲を流されまいと総出で排水する中を逃げる作戦だ。
フランチェスカの報せでマルコが駆けつけワルターと挌闘となるが、その中でワルターが自分を利用しただけだと気づいたシルバーナがワルテルを銃で撃ちまくる。

米は出稼ぎ女たちに渡す賃金の替わり。
女たちの命とも言えるほど、丹精こめて収穫した米を簡単に盗むということは、愛した男とはいえ、シルバーナは許せなかった。

シルバーナは呆然となって、自分の罪の深さを知る。
そしてシルバーナは高い櫓の上に上り、そこから身を投じて自殺する。
事件解決後、シルバーノの屍にみんなが歩み寄り、米を守ってくれたシルバーナに感謝を込めて振りかけていく…。

それまでいっしょに何十日も働いてきた仲間を裏切ってまで、愛する男に従ってしまうシルバーナに「女の性」を見た気がする。
一方で、フランチェスカや他の出稼ぎ女性には、男尊女卑のまかり通る時代に、少しでも頼り甲斐のあるまともな男を見つけよう、男のスケベ心を利用してでも生き抜こうとする強かさが感じられる。

フランチェスカとシルバーナの間を行き来するワルターなど完全にヒモ男。
マルコ軍曹以外の男はみんな頼り甲斐が無く、スケベで情け無い。
さすが女性礼賛のイタリア映画。
シルバーナに一途な愛を貫く女神を、フランチェスカや田植え女たちに逞しい母性を見る。

ドキュメンタリータッチということも相まって、なかなかリアル。
惜しむらくは劣悪な労働環境にありながら、女性たちが髪形も化粧も衣装もバッチリという不自然さくらいか。

犯罪などそっちのけで、ラテンの大らかな生と性に酔う作品である。
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