ツクヨミ

にがい米のツクヨミのレビュー・感想・評価

にがい米(1948年製作の映画)
4.5
男性優位社会に対する反抗.盗みによる犯罪.四角関係による愛憎.これはヌーヴェルヴァーグの先駆けか⁈
私的オールタイムベスト"ニューシネマパラダイス"でがっつりサンプリングされてるらしいので今作を見てみた。
まずオープニング、タイトルバックの裏側で水田での女性の足にクローズアップしつつゆっくりとカメラが上に移動、大きな水田の中でたくさんの人が農作業をしている姿を大写しに見える。まさに新しいリアリズムの幕開けたるダイナミックな撮影が素晴らしい。
するとタイトルバックが終わった途端、ニュース番組みたいに戦後イタリアの状況を語り出すシークエンスに移動。列車に女性労働者が乗ったと思ったら傍で男女のクライムストーリーが展開し、終いにはファムファタールなシルヴァーナマンガーノと男がミュージカルしだす。なんとまあいろいろと詰め込みすぎに見えるが、流れるような展開に飲まれて気にならずもはや当時(40年代)アメリカ映画産業に対する憧れすら感じて堪らなく熱くなってしまうのだ。
そして本編は盗人男の彼女が水田農場で働く日々を見せていく基本ネオレアリズモな話になり、契約していないからと労働を認可されないのだが絶対に労働を勝ち取ろうと奮闘する彼女たちがまさに当時の社会に対する反抗なんだとまたまた熱くなる。なんと活力に溢れ強い女性たちなのだろうか、ネオレアリズモ作品の中でもとんでもない熱量を抱えたキャラクターたちにめちゃくちゃ惹かれまくり。
あとファムファタールなシルヴァーナを起点にした四角関係な愛憎劇もまた見もので、うまいことストーリーに絡まり全く飽きさせない脚本力もすごい。社会に反抗するネオレアリズモ.ノワールな犯罪劇.愛憎極まる恋愛がうまいこと合わさり見事なシネマを形成、ゴダールが"気狂いピエロ"でサミュエルフラーに言わせた「映画は愛.憎しみ.アクション.バイオレンス.死、ようはエモーションだ」という格言を地で行く60年代ゴダール的な映画の代表とも言えるんじゃなかろうか。ラストの展開はまさに衝撃、しっかりと見る者の心に爪痕を残す傑作に見えた。
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