シズヲ

クランスマンのシズヲのレビュー・感想・評価

クランスマン(1974年製作の映画)
3.5
アラバマ州の片田舎を舞台にした人種差別の紛争。60年代に活発化した黒人の公民権運動を背景に、KKKの影がちらつくアメリカ最南部の根深い保守性や人種間の確執が描かれる。当時の革新的な作家であるサミュエル・フラーが脚本に関わっているのがさりげなく面白い。オープニングで流れるソウルフルなファンクが実にクールだけど、直後に描かれるのは寄ってたかって黒人女性を嬲る白人集団なので恐ろしい。スパイク・リーのような先鋭的な作家を見ている現在からすれば色々と物足りなさも否めないけど、社会の過渡期を経た70年代らしい気質を感じられるのが印象的。

リー・マーヴィン扮する主人公は無骨で格好良いけど、終盤まで常に態度が煮え切らない。ある程度は黒人への同情を抱いていながらも立場的に白人市民の顔色を伺わなければならず、それ故に結局は人種間の溝を濁して放置することしかできないという歯痒さがもどかしい。“黒人に乱暴された”という理由で白眼視され忌み嫌われる婦人もそうだけど、社会そのものがナチュラルに“目に見えない線引き”をしている構図が恐ろしい。そして地方の白人社会にごく当たり前のように白人至上主義団体が根付いている様も印象的。純血主義のビラや堂々と十字架を燃やして行進する葬式、集会に当然のように顔を出す権力者など、社会との共生状態が当たり前のように描かれているので慄いてしまう。差別反対派のリチャード・バートンは好演ながらも役どころは些かあざといけど、後にガチで事件を起こすO・J・シンプソンは半ばブラックスプロイテーションのようなテンションで暴れるので清々しい。

ただ全体のエピソードにちょっと取り留めが無くて、いまいちパッとしない印象は否めない。序盤から何度も言及される割に黒人公民権デモは作劇的に大したイベントにもならないし、白人サイドにウェイトが置かれている割にそこまで興味深い掘り下げが行われる訳でもない。作中の展開が物語全体にそこまでグルーヴ感を与えていないような印象が強い。監督の手癖故か良くも悪くも70年代のB級娯楽映画的な演出性がちらほら見受けられるところもある。あとアマプラに配信されてるのはどうやら暴力描写を大幅に削っている短縮版(白人→黒人絡みのショッキングな場面は特に煽りを受けてるっぽい)らしいので惜しい。そんなこんな言いつつも映画終盤、リー・マーヴィンが闇夜の中から次々に姿を現すKKKと対峙する絵面は中々に好き。
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