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俺は待ってるぜのodyssのレビュー・感想・評価

俺は待ってるぜ(1957年製作の映画)
3.5
【スタイリッシュな映像と禁欲性】

石原裕次郎と北原三枝の主演した映画のひとつ。脚本を石原慎太郎が書いています。

蔵原惟繕監督の初監督作品でもあり、カメラワークやアングルがかなり凝っていて、アートを濃厚に意識している映画です。石原と北原はそれぞれ過去をかかえ孤独な生き方をしているという設定ですが、その孤独が脚本だけでなく、そして表情を押さえ気味にした演技だけでなく、映像そのものによって表現されているのです。また、画面も――経年変化でなければですが――非常に暗く、主人公二人の心象風景を示しているかのようです。

 最初の石原と北原の出会いは、若い男女の邂逅として出来過ぎでやや不自然な印象もあるのですが、話が進んで二人の内面が分かってくると、こういう出会いもアリかなと思えてきます。しかし、あくまで石原の過去と未来がからんだ事件が筋書きのメインになっているところが禁欲的で、そこがまたいい。つまり、若い男女が出会いながら、観客の期待通りに筋書きが進まず、その禁欲が逆に隠されたエロスを高めるのに寄与しているのです。日本人としては背が高くスタイルもいい主演二人のコート姿も、スタイリッシュな映像によくマッチしています。

 昭和32年という時代もそれなりに作中に出ています。ブラジルへの移民がまだ日本人にとって希望であった時代、ボクシング(当時は「拳闘」と日本語で言うことが多かったかもしれません)が今より広く市民権を持つスポーツであった時代。この『俺は待ってるぜ」』も、言ってしまえば殴り合いなのですが、戦後10年あまりでまだまだ日本人に荒々しさが残っていた時代の記念碑とも見ることができるでしょう。
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