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電送人間のhorahukiのレビュー・感想・評価

電送人間(1960年製作の映画)
3.6
テレポートは現実的!

人を襲ってすぐテレポートで逃げる!遠くにテレポートするので当然アリバイは万全!そんな完全犯罪を実現するテレポート装置を好き勝手利用して個人的な復讐をしまくる元兵長のお話。テレポート装置使ってない時でも、ジェイソン並みに神出鬼没なのが凄い!

『美女と液体人間』に続く東宝変身人間シリーズの2作目。東宝にとってドル箱だった円谷英二特撮を売りに、新鋭の福田監督による新路線を模索する意図で製作されたSFサスペンス。変身人間と標榜されてはいるけれど、実際には変身などせず、テレポート機能で遠隔から「電送」されてきた殺人鬼が人々を抹殺していくといった内容。

殺人鬼は終戦時に死んだとされた須藤兵長。戦争のために国民から徴収した金を敗戦のどさくさに紛れて横領しようとした上官に反抗したがために殺害されるのだけど、実は兵長は生きていて、人間をテレポートさせる電送装置を駆使しかつての上官たちを標的に復讐を開始する。

須藤兵長を演じた中丸忠雄の不気味な表情が印象的で、闇を纏った映像表現がその場にいるべきではない異物感を強調している。更にはテレビの走査線のようなものを須藤兵長に重ねた特撮がその異物感を助長し、実体があるのに実体のない、そんな微妙な存在である彼を的確に表現している。

本作は電装装置により空間を跨いでの往来を描いたSFではあるのだけど、それと同時にこの世とあの世の往来を根底に置いた作品としても受け取れるところに面白さがあるように思う。須藤兵長は、自身の復讐というパーソナルな行動動機を持った人物として描かれつつも、国民を虐げ踏みにじった存在に対する復讐者としての性質も併せ持つ。国のために自身を犠牲にし尽くすことを強要された人々の総意を代弁するキャラクターとして彼は君臨し、あの世へと送られ沈黙せざるを得なかった無念の表象としてあの世から電送されたのだという、表面的な物語の裏に隠された意図を読み取れる。

そう考えるのならば、本作は怪談とSFのミックスを成し遂げた意欲作であり、更にはあの世とこの世の狭間の存在にまで思いを巡らさせることで観客をより深淵の恐怖へと突き落とす古典的なSF小説のような嫌な読後感に似た感情を巻き起こし幕を閉じる。前作『美女と液体人間』からは、戦争の風化を危惧する嘆きにも似た感情を感じたけれど、本作からもどちらに転ぶのかその狭間にいる人々への警鐘の意図を感じた。

東宝変身人間シリーズは、『ガス人間第一号』が間違いなく最高傑作であるけれど、本作も負けず劣らずな良い作品であると思った。
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