HAYATO

アンダーグラウンドのHAYATOのレビュー・感想・評価

アンダーグラウンド(1995年製作の映画)
4.1
2024年166本目
昔、あるところに国があった。
鬼才・エミール・クストリッツァ監督が、祖国ユーゴスラビアの激動の歴史をブラックユーモアを交えて描く映像叙事詩
1941年、ナチスドイツがユーゴスラビアに侵攻。ベオグラードに住む武器商人のマルコは、祖父の屋敷の地下に避難民の一団を匿い、そこで武器を作らせて生活させていた。やがて戦争は終結するが、マルコは避難民たちにそのことを知らせず、人々の地下生活は50年もの間続いていく。
出演は、『パパは、出張中!』のミキ・マノイロヴィッチ、『スパイ・レジェンド』のラザル・リストフスキー、『ライフ・イズ・ミラクル』のスラヴゴ・スティマチ、『黒猫・白猫』のスルジャン・トドロヴィッチなど。同監督作『アリゾナ・ドリーム』で主演したジョニー・デップが本作への出演を熱望したそうだが、結果的にクストリッツァは主要キャストをユーゴ出身者で固めた。
第48回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞するなど世界的に高い評価を集めた一方、本作の内容がユーゴ内戦を煽った大セルビア主義寄りだとの批判が巻き起こり、物議を醸すことになった作品でもある。
一口に「内容」と言っても実にさまざまな要素が詰め込まれた本作は、映画という芸術の極地に達していると言ってもよい。荒唐無稽な設定の中で、ミクロな視点とマクロな視点を巧みに使い分け、コミカルで騒がしく、ファンタジーかつリアルに、楽しくも悲しく、激動の時代に翻弄される人々を大胆に映し出している。実際の記録映像に主人公たちを紛れ込ませる合成演出は『フォレスト・ガンプ』に通じ、当時の空気感や時代背景の凄まじさを知るには十分な役割を果たしていた。
全編に渡ってジプシー・ブラス(バルカン半島で19世紀頃興った音楽のジャンル)系統のブラスバンド演奏を中心にしたユーゴスラビア民族音楽が散りばめらている。主人公の背後でブラスバンドが奏る音楽はすごくキャッチーで、重苦しい展開が続く中でそのマジカルでパワフルな音色が良いアクセントになっていた。
宗教や言語、民族など多くの要因が複雑に交錯して国が分割され、それぞれが殺し合い、祖国が消失する。日本で生まれ育った自分にとっては想像し難い残酷な現実だが、クストリッツァからの同胞や祖国への思いが心に沁みる作品だった。
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