このレビューはネタバレを含みます
父と娘の旅、仲睦まじい親子のロードムービー。
とは行く訳もなく、
徐々に浮き彫りになっていく、微妙な親子関係。
情緒的近親相姦とも言えるような朧げなる艶めかしさと朧げなる悍ましさを帯びて、父娘の旅は地の果てへと向かっていく。
クライマックスのホテルの一室での独白のシークエンスが鮮烈に素晴らしい。
表面上は仲の良い父娘の間柄も、心の中では行き違い、疎通しない、孤独感にもがき苦しんでいる。
お互いの心根に巡らされている垣根。
心の化粧。一個人の中で相反する外面と内面。ペルソナとシャドウの拗れ。人間の抱える普遍的な自己矛盾。
父娘はお互い親子の愛情に窮乏しているも、合致はせず、すれ違い続ける心。
愛に飢えたそれぞれの心に纏わり付く重々しい孤独感。
ひとり気ままな生活の中での優雅な孤独感とは違い、物理的には他者(しかも肉親)が傍にいるのに心を遮る鉄の壁の存在によって、精神的に交わることの出来ないもどかしさ。優雅な孤独感とは違い、足の力も萎えるような侘しい孤独感。
本作に垣間見る他者との距離感の難しさ。
家族関係、ひいては人間関係の複雑さ。
心を繋げようとすればするほど反発する父娘の姿。
しかし切っても切れない親子という呪縛。
正にヤマアラシのジレンマ。
生々しい複雑な心理描写が醸し出す圧倒的な現実感に身震いする。
家族は勿論、他者は自分の写し鏡。
粛然たるリアリズム、ミニマルな演出、目の離せない長回し、瑞々しい情動、魅力的なキャスト、ヌーヴェルヴァーグから受け継ぐ父子の遺伝子はやはり魅力に満ち溢れている。