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ブルグ劇場のodyssのレビュー・感想・評価

ブルグ劇場(1937年製作の映画)
4.0
【芸術家と市井の幸せ】

 ウィーンを舞台にした戦前のモノクロ映画。劇場や演劇人がからんでいるので、劇中劇や、芝居感覚の人間関係を見る面白さがある。

 主要登場人物は4人。名声を誇る中年男優ミッテラー、芸術のパトロンを自認しミッテラーを何とか自分の夜会に呼ぼうとするゼーバッハ男爵夫人、演劇で身を立てたいと念じている青年ライナー、ライナーが下宿している仕立屋の娘レニ。

 ミッテラーは高名ながら騒々しいことが嫌いで、男爵夫人の夜会に誘われても行く気がない。ある日教会で熱心に祈るレニを見て、その清楚な美しさに惹かれ、レニの父親がやっている仕立屋に注文をしに出かけるようになる。ミッテラーはレニを異性として愛しているのだが、レニは高名な中年男性の好意をあくまで友人としての親切だと思っている。
 レニが心を寄せているのは自分の家の二階に下宿している演劇青年ライナー。しかしライナーはオーディションを受けて落ちてしまう。落胆する彼を何とか舞台に立たせようとしたレニは、たまたまミッテラー宅に男爵夫人から夜会への招待状が来ているのに気づき、それをライナー宛てに書き換えてしまう。
 高名な俳優ではなく無名の青年がやってきたのに男爵夫人は戸惑うが、客の前では取り繕って、将来有望な俳優の卵だと紹介する。お陰でライナーは端役ながら舞台に立つ機会を得、夫人は若くハンサムな彼に惹かれていき・・・・・

 2組の男女が交錯するように惹かれたり、勘違いで接近したりする筋書きが面白い。しかしそうした交錯も、よく見ると中年が一方的に若い異性に惹かれるという構図であり、もう若くない中年男女が魅力ある若者に報われぬ恋をするところがせつない。特にそれはミッテラーの場合にはっきりと出ていて、レニと結婚できれば演劇界を引退しようとまで思いつめるわけで、ここに芸術と実生活の相克というテーマがあらわれている。一方男爵夫人は若い男優との関係が社交界で噂になり、夫との関係が危うくなるが、最終的には自分や夫の身の安全を第一に考えて行動するので、あまりいい印象は残らない。

 とはいえ、男爵夫人役のオルガ・チェホーワは中年女性の熟した美しさを見せてくれるし、レニ役のホルテンセ・ラキイは、今どきの感覚からするとやや厚化粧だが、若い清楚な娘の持つ無垢な魅力と無知から来る残酷さをうまく出している。青年ライナー役のヴィリー・アイヒベルガーのどこか浮ついた演劇青年ぶりもいい。しかしやはり全体の印象を統合し高めているのは、高名な芸術家ながら市井の幸せを断念するミッテラーを演じるヴェルナー・クラウスであろう。

 最初と最後に使われているブルックナーの第4交響曲が、この映画は人間喜劇だけれど同時に厳粛な側面があるのだと教えてくれているようだ。喜劇と悲哀は隣り合わせなのである。
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