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ザ・ロードのgeminidoorsのレビュー・感想・評価

ザ・ロード(2009年製作の映画)
4.6
多忙にて。幾つかの映画をレビューしそこなったまま時だけが過ぎてゆく。
本日ポッカリ時間が出来て、と言うより"何が何でも観たるゾっ!"って時間作って本作観た。
何故かコレをワタシは何度でも観たくなる。愛蔵盤で観た。

決して終末てんやわんや映画では無いし、それどころか終始画面の色合いは色抜きしたトーンであり、"何故そう成ったか"等の事の起こり"は語られない。
"こうあるべきだ"とか"この様な手があるぞ"みたいな、押し付けがましい示唆やテーマも明示してこない。
確固たるヒーローや救済者が現れて、あれよあれよのドンデン返し等一切ない。
実際、世界はいずれ"本当にこうなるのではないか"と感じる。
だから、いい。好きだ。


暗いとか抑揚が足りないとか、"つまらない"と感じる人も居るだろうタイプの作品だが、ワタシは初見から何年過ぎても日常やたらと思い出す。
"ディア・ハンター"や"ミラーズ・クロッシング"や"ベンゴ"等、何故かならず日常不図思い出す映画とは、きっとワタシにとっては大切な作品なんだろう。
なんというか…自分が生きてゆく上での或る指標とか道しるべみたいなもの?かも知れないと思う。




"ザ・ロード"はアメリカの作家C.マッカーシー作品、通称"国境三部作"の内の一つ。
映画化より前に原作を読んでいるだけに、初めは期待はしなかった。
でも当初の懸念をブッ飛ばす映画のレベル高い表現力に、個人的には唸ったもんだ。
勿論高いというのは、美術・演技・撮影・CG・編集等の総てだ。
配役も合点!余分な表現一切無く、各人の少ない台詞は素晴らしい。

もといマッカーシーが綴る原作は"すべての美しい馬"から始まり現在に至るまで、会話の妙というか何気ないコトバの選び方が素晴らしい。
決して難しいコトバは使わない。
そして"数の多い饒舌さ"ではなく、逆に"数の少ない饒舌さ"とでもいうのか…
会話が多い小説を好まない自分には性に合う作家だ。

ちなみに補足としてー
音楽は敬愛するニック・ケイブと、彼のバンドのバッド•.シーズ及びトリオ・インストバンドのダーティー・スリー在籍ウォーレン・エリス。
普段の活動は独自世界放出だが、映画音楽担当の際の彼らは個性なんかを売りに前面に押し出さずに、あくまで映像に沿ってゆっくり物語を引導し支えたりしている。
このコンビは幾多の映画音楽を手がけているが、常に冷静でプロフェッショナルな仕事をしていると感心する。



本作を観るとワタシは何故か襟を正す様な、そして我が子が幼い頃を思い出したりして…少しだけ瞼の奥が熱くなる様な気持ちになる。
なりたくて観るのか…(そうなのかしらん?)
そして観る度、一つ一つの出来事に改めて新しい解釈も出来たりする。

例えるなら"説明的なイラスト"ではなく
"色味抑えたbut懐の深い絵画"の様だと思う。
だから好きだ。

昔、淀川さんが言っていたのを思い出す。
数多くの映画を浅く観るより、好きな作品を何度も観る方が、人生は豊かに成るー みたいな事を。

これから先も再び本作は観るだろう。



6/14 補足
昨日、C.マッカーシーが逝ってしまった。
まるで予想などせず久方に本作を観たのはやはり呼ばれたのか…
大好きな作家だっただけに寂しい。
早川から新作があと2冊刊行される予定みたいだ。読むしかない。
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