アニマル泉

まわり道のアニマル泉のレビュー・感想・評価

まわり道(1974年製作の映画)
4.2
ヴェンダースのロードムービー三部作の第2作で三部作の中では唯一のカラー作品。脚本はノーベル賞作家のペーター・ハントケ。ナスターシャ・キンスキーの鮮烈なデビュー作である。ドイツ最北部から南まで縦断するロードムービーだ。冒頭は曇天のエルベ川の空撮、飛行機を窓枠から捉えたショットになりウィルムヘルム(リュディガー・フォーグラー)の指がインして鮮やかに室内に導入される、さらに窓から見える散歩する老夫婦の俯瞰ショット、そのショットがいきなり割れる、ウィルヘルムがガラスを叩き割る、と強度が高いショットが断片的に重なっていく。この冒頭のリズムと強度が本作のタッチを決めている。
「列車」の映画である。ウィルヘルムと駅での母の別れ、走り出す列車の空撮は映画的だ。車内で見つめるミニョン(ナスターシャ・キンスキー)の圧倒的な存在感が素晴らしい。ミニョンは大道芸人で一言も話さない。いきなり逆立ちしたり、ボールをジャグリングしたり、犬のように擦り寄ってくる。ミニョンは旅芸人でかつてナチス軍人だった老人(ハンス・クリスチャン・ブレヒ)に連れられている。列車が出発する時に向かい側の別の列車の窓に立っているのが女優のテレーサ(ハンナ・シグラ)だ。走りだす列車のウィルヘルムとテレーサの出会いも映画的感性を揺すぶる名場面だ。
ウィルヘルムの旅は作家として自立するための当てのない旅だ。元ナチスの老旅芸人とミニョン、テレーサ、放浪詩人(ペーター・カーン)が一緒について来る。一行は自殺願望のインテリの屋敷に泊まる。死、夢、殺意について語りあう。
ヴェンダースは「赤」が好きだ。タイトルバックの文字は赤だ。本作の「赤」は「血」である。老ナチス芸人の鼻血、自殺願望のインテリが手のひらをペンで突き刺す血だ。
「都会のアリス」に比べて本作はロード・ムービーの止めどなさ、不安定さが増している。行き当たりばったりのエピソードの羅列、これが魅力であると同時に単調さに陥る危険性もある。それが本作でよく判った。ヴェンダースは次作「さすらい」で脚本がない即興演出でさらにこの方向を推し進めていく。
本作も撮影のロビー・ミューラーが素晴らしい。本作は移動する乗り物の窓から見える景色が素晴らしい。人物と景色が見事に収まっている。
老ナチス芸人はハモニカが得意だ。泳げないのを知ったウィルヘルムが船の手すりに老人の両足を持ち上げて川に落とそうと脅す長回しが素晴らしい。ミニョンはボールや山道での赤い傘など「円」のイメージがする。
劇中にストローブ+ユイレの「アンナ・マグダレーナ・バッハの日記」が引用される。
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