TaiRa

まわり道のTaiRaのレビュー・感想・評価

まわり道(1974年製作の映画)
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ナスターシャ・キンスキーのデビュー作。この時点で陰のある美少女というのが確立してる。

書けない作家志望の自分探しの旅。ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』をベースにしつつ裏で行くみたいな。ゲーテ由来のビルドゥングスロマン(教養小説)の形式の中で、その不発性、空虚さが主軸に描かれる。ビルドゥング(自己形成)の不成立を巡る旅路としての「まわり道」。主人公が道中で出会う人たちがずらずらと仲間入りしてしまう序盤の流れが面白い。駅のホームで目が合った女優が向かいの列車に乗り、見つめ合いながらそのまま並走して離れていく場面は贅沢な列車描写。濱口竜介の『親密さ』ラストと今作のそれは、列車の並走が胸ざわつかせる事実を切り取ってる。自称詩人の青年が勝手に付いてくる様はそのものズバリで「なかまになりたそうにこちらをみている!」だった。一同がぞろぞろと黙って路地裏を歩く場面も良い。会話しながら延々と山道を歩く場面もあるが、それで彼らの交流が成されたかと言えばそうでもなく、交わらない個だけがある。作家や女優や芸人、詩人に資本家と属性的な存在でしかない人々。疑似家族的な描写も含め象徴的な話だとは思うが。子供は言葉を発さず、老人は過去を語らず、男と女は対話が成立しない。そしてバラバラと離散していく。この不毛さが戦後ドイツか。
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