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まわり道のotomisanのレビュー・感想・評価

まわり道(1974年製作の映画)
3.8
 歯に物が挟まってるというか、頭にもやがかかってるというか。南のはずれだというのに寒々、雪の岩峰までまわり道して北辺の自宅に舞い戻るような予感で終わるのがおもしろいというかつまらないというか。あそこまで行けばミラノ、ヴェネツィアまでほんの300キロ、帰路と等距離を南にたどればナポリを見て死ねるだろうに。
 ゲーテだってイタリア紀行を遂げたのに、晴れ間が一度ものぞかないドイツを遂に飛び出さない四十郎は何が悲しいのだろう。もっともそのイタリアから逆に出稼ぎ者が羽振りはいいが辛気臭いコンクリ地獄のドイツに大挙流入していた時代である。太陽燦燦だの帝国の故地探訪、古典の生まれる空気に浸るなんぞの事ではもう南国に出向く値打ちが感じられない?それともバカンスまでお預け?なんにせよいっときの享楽に浮かれるグランドツアーな心地でないのは、ゲーテ以降いろいろあって例えばナチスの開き直りから40年、積弊を引き摺って戦後30年、東西分断から15年、ミュンヘン事件から3年の当時、問うべき事は足元まさにドイツにあったからだろう。
 こんな憂鬱紀行だから、現れる道連れも勝手に口を開きまた閉じて別れてゆく。別れついでにこの世からも退去してしまう念の入りようだったりするが、彼ら憂鬱党が同時期のドイツ風なのか?ラインの畔、辞世の弁舌を黙殺され縊れる独り者、辞世の作かもしれない鬱陶詩いのを朗誦して次なる死に場所探しに消える独り者、おそらく何か口を閉ざしながら死なないと決めた風な国防軍敬礼の独り者、無駄口を利かない犬猫的ミニョンとセリフに詰まる女優、他人の言葉で生きるテレーゼが二人でいるなら、虚無的四十郎はどこに向かうのだろう。自分という空き部屋の独り言で居心地がいいなら何も進んで死ぬことにはなるまい。
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