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ひとりで生きるのpikaのレビュー・感想・評価

ひとりで生きる(1991年製作の映画)
5.0
「動くな、死ね、甦れ!」の続編だったのか!少年から青年へと成長する寸前のワレルカが市原隼人に見えつつ、観客もワレルカも守護天使の面影を追うかのように同女優演じる新旋風とのロマンスに引き込まれる。

純真無垢だった少年の頃と変わらぬ戦後ソ連の日常は、ワレルカの心情を表すかのように常に霧や煙、吹雪や水蒸気に覆われる。
ソ連の寒々しい雪の中に溶け込むよう、画面もブラックアウトではなくホワイトアウトで切り替わる。

成長するにつれ視界が広がり、家族や身近な人そして現実のことも見えてきたワレルカは、この世界で自分自身の存在について考える。
画面に映る愚かな姿とは裏腹に、何も恨まず耐えるわけでもなく流されるでもなく、自分で自分の生き方を模索しようとする意志がにじみ出る。

怪我をして飛べない鳥、鎖に繋がれた犬、火をつけられるネズミ、盗まれた犬、屠殺される豚など、それがあるというだけでなく比喩的な意図をも滲み出す多面的な画面構成や演出の力強さなど「語らぬ言葉」がストレートに胸を打つ。
衝撃的で目を覆うようなこの映画の「日常」は、映画の中の出来事だとか戦後のソ連だからとは思えず、時代と国を超え普遍的な人間世界の現実に映ってしまう映画の力が物凄い。

常に俯瞰で居続ける観客の視点から見ればワレルカの魂の旅路は些細で滑稽なものかもしれないが、観客自身に於いてはどうなのだろうかと逆に映画から問われているような鮮烈さがある。

クライマックスからラストまでの幻想的で魅せる「現実」の描写はたまらなくツボを刺激される最高のシーンばかりで感動しました。
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