みかんぼうや

イゴールの約束のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

イゴールの約束(1996年製作の映画)
3.8
ダルデンヌ兄弟の作品も気づけば6作目。大好きな監督、とまではいかないが、ついその作品が気になって観てしまうタイプの監督。そんなダルデンヌ兄弟初期の作品だが、“周りの大人たちとの関わり合いと自我の中で揺れる少年”というスタイルは既に確立されていることを本作で確信。ただ、設定のユニークさも含め同監督作品ではトップクラスに入る面白さだった。

不法移民に家を貸し仕事を斡旋する闇仕事を生業としていたイゴールの父と、修理工の仕事の傍ら、その父の仕事を手伝うイゴール少年。息子との生活のためと闇仕事をこなす父とちょっとした盗み程度であれば何の罪の意識もなく犯してしまうイゴール。そんな真っ当な生活とは言えぬ環境ながらうまくバランスが取れていた2人の親子関係が、ある死亡事故をきっかけに大きく変わっていく・・・

ダルデンヌ兄弟の作品は、大人と少年の “日常的”な関わり合いやそこで起こる微妙な摩擦にその作品の旨味があるが、本作は上記の死亡事故、という“非日常的イベント”が入ることで、ややサスペンス調の雰囲気も匂わせ(しかし犯罪が主題の映画ではない)、同監督他作品と比べて、話的には幾分ダイナミックな要素もある。

一方でドキュメンタリー出身からくる、派手な演出一切抜き、音楽もほぼ無しという、非常に淡々とした描き方。事件性をはらむ内容故にいくらでもエンタメに持っていける内容だが、やはりこの監督兄弟が描きたいのは、周りの大人(本作品では父親)の価値観に影響を受け、それが全てと従順に育ってきた少年が、自分自身の価値観の中で大人と衝突し、自我を確立していく過程なのだろう。

子どもは親の影響や周りの環境によって価値観が形成されていくのは紛れもない事実だが、そこには、子ども自身が様々なものから学び得た倫理観が養われているのもまた事実。それを証明するかのようなタイトル通りのイゴールの行動に、いくばくか救われた思いがした。
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