一人旅

ブルックリン横丁の一人旅のレビュー・感想・評価

ブルックリン横丁(1945年製作の映画)
4.0
エリア・カザン監督作。

ニューヨーク・ブルックリンの狭いアパートに暮らす一家四人の日常を描いた家族ドラマ。
貧しいながらも逞しく生きる庶民の家族愛を映し出している。
母ケイティと父ジョニーの生き方は正反対だ。ケイティは貧しさから抜け出すため掃除婦として必死に働く。ケイティの表情には生活の疲れがはっきり出ていて、何かを楽しむための心の余裕を感じられない。一方のジョニーは一流の歌手になる夢を捨て切れない夢想家。どんなに貧しい状況でも家族を愛し、日々を明るく笑って生きることを大切にする男だ。
「女は現実、男は理想」と良く言われるが、ケイティとジョニーもその法則にぴったり当てはまる。ケイティは直面する厳しい現実に心身もろとも呑み込まれているのだ。だが、貧乏ながらも家族が日々を生きていけるのは、身を粉にして家庭を支えるケイティの存在が必要不可欠。ジョニーの生き方は明るく前向きで生きる上で大切なことを実践しているように見えるが、後先考えない楽観的な生き方だけでは、家族が厳しい現実に立ち向かうことなど到底不可能だ。
ケイティもジョニーも決して悪くはない。両者とも性格が両極端過ぎるのだ。そうした生き方の違いが、ケイティとジョニーの仲を険悪にさせていく。現実味のない夢話を自信満々に語るジョニーに対して、思わず怒りを露わにするケイティの姿が悲しく切ない。現実に見向きもしないジョニーに代わって、家族の生活をたった一人で支えるケイティの辛さや孤独も痛いほど伝わってくるのだ。
父・ジョニーと娘・フランシーの仲睦まじい関係も本作の見どころだ。金はないが、精いっぱいの愛情でフランシーのたった一つの望みをジョニーは叶えようとする。そして、フランシーの存在がジョニーのそれまでの生き方を変えるきっかけにもなっていくのだ。
住民たちが密集して暮らすアパートの日常風景も魅力的に映る。特に、住民全員が窓辺に身を乗り出して何やら文句を垂れる場面は庶民の欲望とエネルギーが充満している。また、家族の物語とは関係のないところで、向かいのアパートに住むおばさんが洗濯物を干す様子がちらりと映り込んでいたりもする。人と人の距離が極端に近い庶民のコミュニティの猥雑さが魅力的に、強調的に描かれているのだ。
貧しさ、家族内での確執、そして予期せぬ不幸に直面しながらも、やがては愛の結束のもとしっかり前を向いて生きる力を取り戻していく家族の姿を哀歓たっぷりに描いた感動のドラマだ。中庭に生える樹木は庶民の生きる強さを象徴している。アパートの屋上から樹木を眺める姉弟の晴れやかな表情が印象的だ。
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