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ブルックリン横丁のRのレビュー・感想・評価

ブルックリン横丁(1945年製作の映画)
4.5
古い映画を見ていこうシリーズ。お次はエリアカザン監督のこの作品。まずひと言。 すばらしい!!! まだそんなに数見てないけど、エリアカザン、僕の中でだんだんハズレなしの監督になりつつある! 本作なんて、タイトルが面白くなさそうやからこそあえて見てやるかと見てみたら……こんなにすばらしいとは……なめてました。本作をひとことで表すとしたら、貧民人情モノ、とでも言いましょうか。主人公は、ブルックリンの貧困層アパートメントに暮らす少女フランシー。彼女はヤンチャくれの弟と日々ガラクタを集めては売りさばいて、家計を助けたり小遣いにしたりしながら楽しそうに暮らしてる。フランシーのお母さんケイトはマンションの掃除婦をしながら生活費を稼ぎ、家事・子育てをこなして、儲けの余りは保険や貯蓄にまわして、堅実なリアリストとしての人生を徹底している。対照的に、お父さんのジョニーは天真爛漫な芸人さん、レストランやパーティーの余興で人々を楽しませながら、いつか大きな仕事をしてやると意気込んでるドリーマー。しかし稼ぎが悪いうえ、大酒飲み。娘のフランシーからしたら、だれに対しても剽軽で、いつも人々を微笑ませる、おおらかで開けっぴろげな性格のダディーが大大大好き。もうほとんど恋の領域。だが、奥さんからしたら、自分で結婚相手に選んだとはいえ、どうしようもない甲斐性のなさで不満は募るばかり。ここにさらに、妹のシシーが3度目の結婚相手を見つけたから再婚するんだということになって、世間に対して恥ずかしくてしょうがない、と頭をかかえるケイト。悩み抱えすぎね。そんなこんなの事情が、すばらしい人物描写さばきで描かれていくのです。ほんとに皆さん感動的なほど素朴で善良な人々なので、どのキャラクターも愛おしくってしょうがない。愛さずにはいられない。とりわけ父ジョニーを演じるジェームズダンという俳優さんの魅力は心をつかんではなさない。どれほど生活力がなかろうと、ある種の人々にとっては、ジョニーは理想的な男であるに違いない。現代ならば、女が養ってあげるということも可能になったので、こういう男と一緒にるのもアリかと思うが、この映画が作られた当時ではぜったいあり得ないんですよね。そして、したたかな気のいい尻軽女シシーおばさんを演じるジョーン・ブロンデルも大変魅力的。彼らに比べるとお母さんのケイトはキャラ的にも演技的にも部が悪い。子どもウケ悪いのもしょうがない。でも、この人がいないとそもそも彼らの生活は成り立たない。そこは理解してあげなければならない。で、何より驚きなのが、主人公フランシーを演じたペギー アン ガーナー!!! 昔の子役とは思えぬ見事な見事な演技力!!! こんな昔にこんな演技巧みな子どもがいただなんて! 信じられない!!! 昔の映画の子役って基本下手なんばっかりのイメージやのに!!! 彼女の表現するありとあらゆる感情が、頑張りからくる技巧感が皆無の、とても素朴で、自然で、人間的なものだった。深く感動しました。そして……まぁどんだけ純情な男に見えても、やるこたきっちりやってるドリーマーパパ、何と、奥さんが3人目の子を孕ってしまうのである。そうなると、ただでさえ厳しかった家計の事情がさらに厳しくなってしまう。それでも生活を成り立たせるためには、生活の基本部分を変えるしかない。夢を諦めてもらうしかない……こういう映画を見て僕がよく思うのは、ドリーマーは別に成功しようがしまいが、ドリーマーで突っ走りきったらいいんじゃないか、ということ。たとえそれでのたれ死んだとしても、どうせ人間はみんな死にます。何があってもなくても絶対死ぬ。100年経ったらいま生きてる人たちはほぼ全員消えてます。ただ安定という幻想だけを求めて、不満や疑念やモヤモヤを抱えながら、いわゆる普通の生活を送るくらいなら、自分の道を突っ走ってのたれ死ぬほうが潔い。僕は個人的にそう思う。ただそうしたい人は、結婚とか子育てに関しては、自分の考え方や立ち位置をしっかり考えとかないといけないとは思う。さて、本作も終盤に近づいてくると、生と死という大きな問題が出てきます。それをフランシーがどう受けとめ、どう生きていくのか。ここはほんと涙が出るくらい心に響いた。素晴らしかった👏😭 で、メインのストーリーの展開の良さ、面白さに加えて、小さな脇役が本当に素晴らしい映画でもあった。特に、ジョニーが勤めていたレストランの店長さん、しばしば彼らのお宅に立ち寄ってた警察官、このふたりの人情は、心にほっこりした潤いをもたらしてくれた。ここまで繊細な演技を披露した俳優さんたち、本当にすごいけど、それを実現したエリアカザンは、やっぱりすごい監督なんだろうな、と思った。ほかのカザン映画も見てみたい。
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