不在

イノセントの不在のレビュー・感想・評価

イノセント(1975年製作の映画)
4.0
主人公トゥリオは死というものを分かっていない。
正しくは亡くなった人に対する、人間の感情をよく理解していないようだ。
例えば二人の兄弟がいて、弟が死んでしまったとしても、親の愛情の全てが遺された兄だけに注がれる訳ではない。
むしろ亡くなった弟への両親の愛はより深まるだろう。
死こそがこの世で最も無垢なるものだからだ。
トゥリオの不倫相手であるテレザは夫を亡くしており、そのせいか彼のことを本気で愛そうとしない。
そして彼は、今生きている自分ではなくこの世を去った人たちを思い続ける自身の妻やテレザの姿に疑問を抱きつつも、ある一つの確信に辿り着く。
それは死ねば永遠の存在になれるという、なんとも浅はかなものだった。
死んだ人間に誰もが敵わないのは確かだ。
しかし何も残さず死んだとて、そこに意味はない。
愛されるべき人間が死ぬからこそ、愛は永遠のものになるのだ。
そんな愛や死について理解することができなかった哀れな彼のもとから走り去っていくテレザを映して映画は終わる。
不在

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