ストレンジラヴ

憂国のストレンジラヴのレビュー・感想・評価

憂国(1966年製作の映画)
3.9
「至誠」

昭和11年2月26日、帝都で青年将校が叛乱を起こす。世にいう「ニ・二六事件」である。この時青年将校たちは新婚の武山中尉(演:三島由紀夫)には声をかけなかった。このことによって、武山中尉には叛乱軍鎮圧の命が下される。友に銃口を向けることはできず、逆臣であることもかなわない。板挟みに苦悩した武山中尉は妻・麗子(演:鶴岡淑子)との自刃を決意する。
僕が初めて三島由紀夫作品を読んだのは17歳の頃だった。僕にとって国内では最も好きな作家で、「憂国」も「花ざかりの森」と併せて読んだ。
'60年安保以降、三島由紀夫の中でナショナリズムに対する吐露が急激に加速していく。自身が敗戦を体験した20歳の頃から永らく心の奥底に抱えていたものが安保闘争を機に吹き出したように映る。本作が製作された同年、三島は同じくニ・二六事件と戦後日本を題材に「英霊の聲」を発表している。そして思うに、この頃から三島は死を意識し始めたようだ。決意までは至らないものの、いずれ来るその時に向けての準備が始まっているように思える。本作もその一環で、何か遺しておきたかったのだろう。やたら切腹やら殉教やらをテーマに写真に収まっている。
だからこそ、本作はもどかしい立場に置かれる。作品全体のテーマは日本人にしか理解し得ない。外国人には「至高のアート」として映るかもしれないが、作品の根底にある精神性は日本に生まれ育たないと理解できない。一方で、三島由紀夫自身が武山中尉を演じることによって、どこか自己陶酔が見え透いてしまい、高尚に見せれば見せるほど入り込めなくなってしまう。つまり結局は「三島由紀夫の三島由紀夫による三島由紀夫のための映像化」に過ぎず、その本人が故人となってしまった以上、本作が完全に理解される機会は永久に失われたと言える。
いずれにせよ、三島由紀夫を知るというよりは、三島由紀夫を感じる作品と捉えた方がいいだろう。