サマセット7

ヘルボーイのサマセット7のレビュー・感想・評価

ヘルボーイ(2004年製作の映画)
3.5
監督・脚本は「パシフィック・リム」「シェイプオブウォーター」のギレルモ・デル・トロ。
主演は「ブレイド2」「パシフィックリム」のロン・パールマン。

[あらすじ]
第二次世界大戦中、ナチスは怪僧ラスプーチンに導かれ、冥界の扉を開く。
アメリカ軍の襲撃で扉は閉じたが、後には赤い肌をした悪魔の子が残されていた。
彼は「ヘルボーイ」と名付けられ、従軍していたブルーム博士(ジョン・ハート)に引き取られる。
…そして現代(2000年代)、ヘルボーイ(ロン・パールマン)はFBIに雇われ、世間には隠されつつ、仲間と共に魔物を狩る部署として勤務していた!!
そんな中、行方不明だったラスプーチンが冥界から蘇り、世界を滅ぼす陰謀を巡らし…!!!

[情報]
原作は、マーベルやDCに次ぐ第3のアメコミ出版社であるダークホースコミックスより出版された、アメコミシリーズ。
原作者は、今作でもデザインを担当したマイク・ミニョーラ。
マッチョな悪魔が、FBIの捜査官として魔物の関わる事件を解決する、という基本設定に、ヘルボーイの出生と能力の秘密、読心能力をもつ半魚人エイブや発火能力を持つ超能力者リズなど同僚らとの交流が絡む、というシリーズかと思われる。

監督・脚本は、メキシコ出身のオスカー監督ギレルモ・デル・トロ。
世界屈指のオタク監督として知られる彼は、今作でも偏愛するモンスターの造形に工夫を見せている。
後にアカデミー賞作品賞・監督賞を獲るシェイプ・オブ・ウォーターを彷彿とさせる半魚人キャラクターが、今作でも登場しているあたり、興味深い。
今作は、ブレイド2に続き、彼の2本目のアメコミヒーロー映画監督作である。

今作では、デル・トロがファンを公言するラブクラフト作品のクトゥルフ神話へのオマージュが随所に見られる。
魔導書、召喚される邪神の造形などだが、最たるものはモンスター・サマエルで、「名状しがたい」魚介類的なビジュアルが採用された。

主演のロン・パーマーは、多数の出演作で知られる名脇役。
顔を見れば、ああ、この人か、とわかるお方。

今作は、批評家からの評価はそこそこだが、興行的には振るわず、6600万ドルの製作費を投じたが、1億ドルに届かない興行成績に終わった。
続編が作られているあたり、一部ではカルト的人気を博したと思われる。

[見どころ]
異形のヒーローの孤独と苦悩、そして美女と野獣的な切ない恋物語!
ロン・パーマーの醸し出す、他のアメコミヒーローとは異なる絶妙な味!
デル・トロならではのヌメヌメしたモンスター造形!!
とにかく剣を回しまくる、ナチスのニンジャ・サムライ的な暗殺者のクールなカッコよさ!!

[感想]
ヒーローものというと、美形のイケメンか美女を主役に据えがちなところだろうが、今作のヘルボーイは、赤い肌のゴリゴリマッチョなモンスター。
どう言葉を飾っても、イケメンとは程遠い。
演じるロン・パーマーは、コミカルさと渋みと哀愁をキャラクターに与えて、他のアメコミヒーローと異なる、独自の風味を出している。
まずは、このヒーローのキャラクターが、今作の魅力だろう。

彼の感じるコンプレックスは、愛する彼女に釣り合わない容貌という、実にシンプルかつどストレートなものであり、まさしく美女と野獣のそれ。
古典的なものだ。
今作のテーマとも直結しており、わかりやすい。

半魚人や蘇りし猟犬サマエルなど、クトゥルフオマージュに溢れたモンスターの造形と動きがいい感じで気持ち悪く、見ていて楽しい。
クトゥルフ神話好き限定かもしれないが。

それより強烈な存在感を示すのが、ナチスの暗殺者クロエネン。
全身細身の黒ずくめ、ガスマスク、両手にトンファーのような剣を持ち、グルングルン回しつつ、ガンガン殺していく。
まるで容赦なし。
セリフはほぼないが、どう考えてもラスプーチンよりも目立っている。
扱いに監督の偏愛が伝わってくる。
ちなみに、製作中に日本の漫画家の弐瓶勉がイラスト提供しているらしい。
日本のアニメ・漫画文化贔屓のデル・トロらしいエピソードだ。

ストーリーはわかりやすく王道で、特に捻りらしい捻りもないが、ダークナイト以前のアメコミムービーと考えると、こんなものだろう。

発火能力者リズに関するストーリーラインは、やや強引にまとめた感があり、ヒロインの心情の動きに飛躍があるように思える。
とはいえ、能力を絡めたオチは面白い。

バトル、アクションは、非常にプロレス的で大味。
クロエネンのカタナ捌きや、サマエルの三次元的な動きなど、一部面白い描写がある。

[テーマ考]
非常にわかりやすく、ラストでセリフで説明してくれる。ややくどいか。
出自や生まれではなく、重要なのは、自身のする選択だ、というテーマ。
ヘルボーイの容貌、出自、隠された秘密、リズの能力と、このテーマで一貫しているのではあるまいか。

なお、終盤明らかになるヘルボーイの折れたツノに関するアレコレや、右手に関するアレコレを、フロイト的に分析すると面白いかもしれない。
その視点からは、今作は、リビドーにまつわる、子供が「大人」になる話、と読める。
ヒロインとの関係性もこの流れで理解できる。

[まとめ]
独自の味を打ち出した、オタク監督によるアメコミヒーロー映画の第1作。
しかし、モンスター好きを突き詰めて、モンスター映画でアカデミー賞を獲ってしまうとは、本当に凄い。
引き続き、デル・トロの監督作を観ていきたい。
もちろん、今作の続編も観てみたい。