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港の日本娘のzhenli13のレビュー・感想・評価

港の日本娘(1933年製作の映画)
4.3
不思議な奇妙な空気に覆われている。
「結局 二人っきりになるのね」
「そして いつまでも 二人っきりよ」
大型客船の見える水平線にちいさく身を寄せるセーラー襟ふたつ。ずっと見ていたくなるような構図。
しかしその30秒後にはさーっと現れたバカ全開ヘンリーのバイクでアハハと去る砂子。軽やかな裏切りは裏切りとして認識されず、あくる日も反復される往き帰りの道。なんなんだこの構成は。なんという鮮やかさ。

妙に無慈悲で乾いた中間字幕のナレーションにより2人の乗るバイクは米つぶの超ロングショットで砂浜や横浜の街や山の一本道(キアロスタミ『風が吹くまま』!)を、布にあてた鋏のようにさーっとすべり抜ける。バカ全開を全力でからっからに表現する。
夜空に浮かべた切り紙細工のような教会。表現主義的な影をつくる内装。白塗りの役者たちも、皆なんだか人形みたいだ。ウレシュウ演ずるヘンリーをはじめ、ドラ、シェリダン燿子などという奇妙なネーミングで皆人形みたい。
「神様の前で結婚しちゃうんだよ」
男たちの憂いは薄ぺらく単純で、女たちは複雑で豪胆で悲劇的だ。太い眉根を寄せる砂子こと及川道子の正面ショット(ホラーみ)は三段階ジャンプズームイン・アウトという唐突な効果に縁どられる。

『恋を忘れて』にも出てきたチャブ屋が登場する。桑野通子が美しいタイトワンピース姿で歩いていた小高い丘の上の道に似たところも登場する。チャブ屋の砂子はゾロリとした日本土産のような着物姿、女たちはドレスで点々と立っているか踊っている。このあたりで何度か、場だけを残して人物がフェイドアウトする。亡霊みたいに。
家庭の象徴である毛糸玉は愚弄されるかのように床で引き回され、その先にあるのは身を寄せて踊るヘンリーと砂子。2人の足にほぐれた毛糸がどんどん巻きつくのも気にせず踊る。
砂子の部屋の、ぺらぺらのベニヤ板でできた、他人が勝手に出入りできる扉の閉まる音は、きっとバタンとも言わないくらい軽いに違いない。
大型客船と港をつなぐ大量の紙テープが始まりと終わりを円環する。それこそ物語のように投げ捨てられた、砂子を描いたキャンバスが水面に浮かぶばかり。

あらゆる通俗的な関係が理屈の合う深まりを見せようとするところを奇妙に回避し、こんなにも不思議で神聖な空気に覆われている。
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