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ゆきゆきて、神軍のアリのレビュー・感想・評価

ゆきゆきて、神軍(1987年製作の映画)
4.9
原監督自身がおっしゃっていたように、「野火」を見たらこの映画を思い出すし、この映画をみたら「野火」を思い出すというまさに今年改めて見られるべき映画のひとつです。
単に人食に触れているというだけではなく「野火」が問いかけるものの先を奥崎さんは暴いておられるのですよね。

戦争の凄惨さに焦点をあてたとき「みんな大変だったのだから」「経験してないものには分かり得ないのだから」と誰にも責任を問えなくなるようなムードって起こってしまいがちです。
(戦争だけでなく災害や公害で、今でもそんな光景ばかりかも)

奥崎さんはそういった空気を意に介せず、どんどん踏み込んでいく。
上官や同僚、天皇の責任を率直に問い事実を明らかにすること、確信的な暴力性や常軌を逸するような執念によってそれがようやく可能になるって、どういうことでしょう?

奥崎さんを自己顕示欲の強い奇矯なアナーキストと半笑いで受け止めてしまいそうな私たちの社会がどのくらいまともに、起こってしまった凄惨さに向き合えてきたのか、見ているうち色んなものが揺らいできます。
アフタートークで聞いたお話で、出所された奥崎さんからパート2の撮影を熱望され、原監督が断ったというのもとてもまっとうなお話でよかった。
ヒューマンドキュメンタリー映画祭•阿倍野にて。
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