オーウェン

マジックのオーウェンのレビュー・感想・評価

マジック(1978年製作の映画)
4.7
この映画「マジック」は、「明日に向って撃て!」「マラソンマン」のウィリアム・ゴールドマンの凝りに凝った原作を、ゴールドマン自身が実にうまく脚色して、「ガンジー」「チャーリー」のリチャード・アッテンボロー監督が、異様な心理の葛藤を目撃させてくれる、サスペンス・ミステリーの傑作だ。

アンソニー・ホプキンス扮する小心な腹話術師、アン・マーグレット扮する、その初恋の女性、バージェス・メレディス扮する老練なエージェント、主要な人物はわずかにこの三人だ。
いや、腹話術の人形、ファッツを数えなければいけない。

声はもちろん、ホプキンスだし、大写しの目の演技を、ホプキンスが仮面を付けて、やっているらしいところもあるが、とにかく、この人形の出来が素晴らしいのだ。

アンソニー・ホプキンスは、自信のない奇術師で、奇術を腹話術と結びつけて成功する。
彼はバージェス・メレディスのエージェントに見込まれて、TVショーを持つところまでいくが、身体検査を拒否して、行方をくらましてしまう。

故郷の湖畔で、ロッジを経営している初恋のアン・マーグレットを訪ねて、夫との仲が冷え切った彼女と関係を持ってしまう。

そんな彼のもとへ、エージェントが追いかけて来るので、人形で殴り殺してしまう。
映画の中では丁寧に説明していないが、自分の方が人形になっているのではないか、という恐怖感があって、どうも健康診断を拒否したらしいのだ。

というのも、結末近くで、アンソニー・ホプキンスの顔が人形そっくりになるシーンがあるからだ。

更に、セールスの出張から帰った、アン・マーグレットの夫の嫉妬深いエド・ローターも、人形に握らしたナイフで刺し殺してしまうのだ。

このだんだんと追いつめられていくアンソニー・ホプキンスの演技が、見事というしかない。
変形のひとり二役だが、人形が生きているような微妙なところを、鮮やかに表現している。

脇の二人についても、バージェス・メレディスのベテラン・エージェントがうまいのは当然だけれど、アン・マーグレットも、若さと愛を失いかけた人妻を、好演していると思う。

何も俳優に、こうまで演技を要求しなくても、人形が良く出来ているのだから、"怪奇映画"にしてしまえばいいのにという考え方もあるに違いない。

しかし、作者のウィリアム・ゴールドマンも、リチャード・アッテンボロー監督も、それでは気がすまなかったに違いない。
そして、このパターンでは、腹話術師が葛藤の解決策として、人形を殺してしまうのが普通だが、そこにも新しさを盛り込んでいると思う。

人形を殺すというのは、どういうことか、というところで、自然で凄絶なクライマックスを用意しているのだ。

ダドリイという有名な人形を使う専門家のデニス・アルウッドが、この映画の中の腹話術の指導をしていて、バーテンダーの役で顔も見せているが、これは奇術ファン、推理小説ファン、怪奇映画ファンにとっては、まさに見逃せない映画だと思う。
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