しおまめ

サイレントヒルのしおまめのレビュー・感想・評価

サイレントヒル(2006年製作の映画)
4.5
数年前に既にBlu-rayを購入していたものの、ホラーという先入観が先走って後回しにするビビり症であるが故に、今日まで開封することすらなかった。
しかし某動画配信で同時再生会があったため、良い機会だと思いようやく鑑賞。
以前からその評判は知っていて、原作となっているゲーム版も一部はプレイ済み。
当然と言っていいものかはわからないが、自力でのクリアはビビり症の自分には怖すぎて出来なかったが、この映画に関しては「何故もっと早く観なかったんだ!!」と後悔するぐらいに傑作だった。


サイレントヒルとはPlayStation時代の1999年が初出のホラーゲームシリーズ。現在までに8作品が発売されている。
また、初代サイレントヒルを開発したスタッフは後にソニーへと移籍し、日本の民間信仰をテーマにしたホラーゲーム「サイレン」を開発。こちらも映画化されていたりと、とにかく開発者たちの才能に恵まれたシリーズだったことがわかる。
最近はとんとそのタイトル名すら聞かなかったが、2014年にメタルギア及びデスストランディングで有名な小島秀夫監督による新作が発表。
しかしKONAMI内部の混乱によって企画自体が頓挫し、再び静かな時間が続いている状態。

この映画が公開された2006年時点でゲームシリーズのほうは「4」まで発売。
そのため劇中ではそれまでのゲームシリーズを彷彿とさせる音楽や画面がそのまま使用されていたりする。巷でのこの映画の好評価の要因はほぼそこにある。
しかしそもそもゲームの方の音楽自体が物悲しくもあり不気味でもある特徴的なものであるため、
映画の中でそれらに自然に馴染むように映画オリジナルの楽曲が挿入されているという点は、引用だけでは留まらない、作品を深く知り、リスペクトしなければ実現することはできないものだ。
特に美術、クリーチャー造形などは原作での印象を壊すことなくアップデートされたものになっており、鉄と錆を恐怖の象徴のように描いたゲームに応えるかのように、有刺鉄線を使ったクリーチャー表現は非常に親和性が高い。
クライマックスでの拘束と障害のふたつの意味を含ませた有刺鉄線による表現は、目を背けたくなるものでもあるが、台詞ではなく画で見せるものとして素晴らしかった。

映画の物語は、原作となった物語をある程度踏襲している。
特に初代サイレントヒルの印象を強く感じるものであるが、節々には2006年当時の最新作の「4」までの要素を入れていたりと、ゲームファンが観ると笑みがこぼれるシーンがいくつもある。
そして意外に思われるかもしれないが、原作のサイレントヒル自体が家族愛ものとして最初から存在していたものであること。
映画が親と子のファミリーストーリーとなっているのは決してトレンドだからなどではなく、原作リスペクト故のものである。
しかしながら昨今ではよくある暖かい物語として帰結はしておらず、シリーズではお馴染みの宗教を交えた非情な物語として描いており、その結末も片方の偏執なハッピーエンドで終わる。
実際のところゲームの方はマルチエンディングを採用しているためラストに関しては原作のゲームとしてではなく、映画における必然性を重視した結果と観たほうがいいかもしれない。

非情な物語と書いたが、ある意味ではこの作品の物語は情を厚く描いたとも言える。
特に物語の最大の起点となる少女アレッサの境遇と終盤の行動は、映像的には恐ろしいことこのうえないものだが、彼女にとってしてみれば願っていもいなかった最高の瞬間であるし、それを行動で示すあたりは狂気を感じるし可愛さも感じる(だからこそ怖いとも)。
といっても、観ているコチラも彼女の心情は理解できるよう映画は出来ているため、終盤のショッキングなシーンは人によっては解放感を感じるものに見えなくもない。事実、自分はそうだった。
しかしながら起こっていることは酷いものであるというアンビバレントさが、なによりもこの映画の持ち味のひとつなのだろう。
それこそ、恐ろしく気持ち悪いものとしながらも美しくもあるサイレントヒル特有のクリーチャー造形と同じように。


ただいかんせん自分は原作となるゲームをある程度把握していたため、
この作品の悪魔と宗教といった対立構図を理解するのにそれほど苦労はしなかったが、何も知らない人にはよくわからないものに映ってしまうのも仕方ないでしょう。
サイレントヒルの設定というのは非常に複雑でもあるため、それを理解しようとするには尺が足りていないようには感じる。
また、物語的な必然性やサイレントヒルという作品が持つ抽象表現の数々を半ば無視した、いわゆるファンサービス的な要素が多かった部分は否めず、
サイレントヒルというオリジナル映画として考えた場合、一部クリーチャーがアトラクション要素のひとつとして片付けられてしまう状態になってしまっている。
一部は続編であるリベレーションで理由付けされているみたいだが・・・。


映画単体としても、ゲームからの派生としても、
非常にクオリティが高い作品であることに間違いない。
役者(特にアレッサ役のジョデル・フェルランドの怪演)の演技も素晴らしく、「サイレントヒルってどんなゲーム?」と聞かれたらおススメできる作品と言っても過言ではない、原作リスペクト感じる素晴らしいものでした。

(Im burningのシーンが好き)
しおまめ

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