サマセット7

エリザベス:ゴールデン・エイジのサマセット7のレビュー・感想・評価

3.3
1998年公開「エリザベス」の9年ぶりの続編。
監督は前作と同じくシェカール・カプール。
主演は「ベンジャミンバトン数奇な人生」「ブルージャスミン」のケイト・ブランシェット。

[あらすじ]
16世紀後半のイングランド王国を統べる女王エリザベス1世(ケイト・ブランシェット)は、内政の基盤を固めたものの、宗教問題で対立する大国スペインをはじめ諸外国との外交に苦心する。
さらに、イングランド王権を主張するスコットランド女王メアリー・ステュアートがイングランド国内で幽閉状態にあり、長年の懸念となっていた。
そんな中、女王は、新世界帰りの野生的で率直な探検家ウォルター・ローリーに、急速に惹かれていくのだが…。

[情報]
イングランド史上最も高名な君主の一人、エリザベス1世の人生のうち、有名なアルマダの海戦に至るまでの時期を、エリザベス1世、侍女ベス、ウォルター・ローリーの三角関係を中心に描いた史劇。
1998年に公開され、ケイト・ブランシェットの名前を世界に知らしめた、「エリザベス」の続編にあたる。

歴史上の人物、エピソードを題材としているものの、いくつかの点で大きく史実を改変、省略している点に注意を要する。
例えば、今作の時期においてもエリザベス1世の最重臣であったウィリアム・セシルは、前作で隠居したかのように描写され、今作には一切出てこない。
また、今作で問題となる侍女ベスとローリー卿の間の事件は、史実では、アルマダの海戦の後の話である。
有名なスペイン無敵艦隊を退けたアルマダの海戦の描写も、史実とは若干異なるようだ。

気になる人は、角川漫画学習シリーズ「まんが人物伝エリザベス女王一世」という研究者監修の伝記漫画が分かりやすく一冊で女王の半生をまとめているので、参考になる。
電子書籍化されているので、オススメしたい。

今作は、5500万ドルの制作費を投じて制作され、興収は7500万ドルほど。興行的に成功したとは言い難い。
批評家、一般層とも賛否両論のようである。
アカデミー賞衣装デザイン賞受賞。

[見どころ]
相変わらず、ケイト・ブランシェットの演技はキレッキレ!!
至高の存在となった女性の複雑な内面を、繊細に演じる!!
エリザベス1世を始め、宮廷の面々が身につける衣装と装飾品の豪華絢爛さ!これは眼福!!

[感想]
映画に過度な先入観や期待は禁物だ。
特に史劇の場合、推しの出番を期待し過ぎると、裏切られた気になって、ガッカリすることがある。

例えば、漫画ナルト好きの海外の日本愛好家が、真田幸村の伝記ドラマを見て、猿飛佐助いないの!?とガックリするような。
例えば、漫画蒼天航路ファンが三国志のドラマを見て、張遼も荀彧も出てこないの!?とガックリするような。
例えば、漫画ワンピース読者の日本人が、アルマダの海戦が出てくる伝記映画を観て、海賊にして海軍副司令官、フランシス・ドレイクがほとんど出てこない!!!?とガックリするような。

最後の例は、今作を観た私である。

そもそも今作は、アルマダの海戦に至るまでの時期の、女王と寵臣、そして侍女との三角関係を軸に、女王の揺れ動く内面を繊細に描いた人間ドラマである。
アルマダの海戦自体は、メインの題材ではない。
したがって、海賊フランシス・ドレイクの出番がないのも、ある意味当然かも知れない。

しかし、前作で大きく取り上げられ、今作でも出ずっぱりの、諜報機関の長フランシス・ウォルシンガムの扱いからして、同じくらい歴史的に有名かつ重要な、ドレイクの活躍も、当然観られるであろう、と期待してしまったわけだ。

今作には、残念ながら、フランシス・ドレイクはほとんど登場しない。
一応登場はするが、ほんの一瞬のみだ。

代わりに主役級の活躍をするのは、探検家ウォルター・ローリー。
演じるクライヴ・オーウェンはワイルドで魅力的。マントを水たまりにかけて、上を女王に通らせたというエピソードも尖っている。

彼と、ケイト・ブランシェットが見事に演じる女王の、自由な海に生きる男とイングランドで最も不自由な女性との間の、不器用で捩じれた恋模様は、それなりに見応えがある。
侍女ベスとローリーのダンスをじっとりと熱っぽく見つめるエリザベス…。

全体に、ストーリーは詰め込み過ぎの感が否めない。
エリザベス1世の人生など、本来一年かけて大河ドラマで描くべきボリュームの題材だろう。
2時間×2本で描くのは無理がある。
その結果、メアリー・ステュワート絡みの陰謀とこれを追うウォルシンガムのラインも、メインの三角関係のラインも、そして、対スペインの戦争のラインも、どれもさらっと触れた、という感覚になってしまった。
どうせこのテイストでやるなら、メアリー・ステュワートもアルマダの海戦もガン無視で、三角関係に全振りしても良かったかも知れないが、そうするとますます客が入らないか…。

史実はどうしても散文的なので、映画のシナリオに落とし込むのは、難しい、ということか。
時系列を改変しているのは、クライマックスを海戦に合わせるためだろう。
しかし、フランシス・ドレイクの登用をきっちり描かないと、エリザベスが海戦の勝利にどのように寄与したかが伝わらず、折角のクライマックスが白けるような気がするのだが…。
身分でなく、実力で人を登用した、という女王の凄さも、今作からは全然伝わらないし…。
単に、イケメンを重用したようにしか見えないんだが…。女性の自立を描くドラマとして、それでいいのか…?

なんやかんや言いつつ、ケイト・ブランシェットの演技力は、さすがの一言。
現役女優では最強クラスかも。
彼女の纏う、アカデミー賞受賞の衣装のためだけにも、一見の価値はあるか。

[テーマ考]
本作の主題は、エリザベス1世の揺れ動く内面を描く点にあろう。
とかく神格化されがちな歴史上の人物を、悩み、妬み、葛藤し、それでも天が与えた責務を果たさんとする一人の女性として捉え直す、というのは、それなりに意味があろう。
史実上の重要人物たちを思い切って省略し、エリザベス1世、ローリー卿、ウォルシンガム、ベス、メアリー・ステュワート、フェリペ2世程度に絞ったのは、かかるテーマに因ると思われる。

このテーマは前作とほぼ同様なのだが、今作では、統治者の孤独と悲哀により焦点を合わせた、と一応は言えるか。
ほぼ同じテーマなら、前作で終わらせておいても、よかったかも知れない。

[まとめ]
女王の孤独な内面を、ケイト・ブランシェットが繊細に演じた、史劇の続編。
海賊に、スパイの長。
絶対王政と宗教改革。
大航海時代と産業革命の萌芽。
この時代は、本当に魅力的だ。
また関連する史劇を見てみたい。