midored

霊魂の不滅のmidoredのレビュー・感想・評価

霊魂の不滅(1920年製作の映画)
5.0
スウェーデンで1920年代初頭に作られたサイレント映画。何だこれは。泣きました。お話としてはキリスト教的な世界観で描かれる魂の救済物語です。

作品寿命の短さでは他に類をみない映画という芸術ジャンルにおいて、100年たった今もしぶとく生き残っている作品だけあって、素朴なのに映像の力が鬼のようでした。

表情、目線、指の動き、壁に映る影、そして疲れた妻の巻き毛やホコリだらけのボロ雑巾のような男達の服。問いかけるような間に問答無用で意識が吸い込まれます。

セリフという枠が外れた映像が、想像の中でどこまでも研ぎ澄まされて解像度を増してゆくようでした。全自動で集中力が大量消費されるので、脳みそが疲れて朦朧としてくるくらいです。

これはムービーというよりは幻灯機で見るもう1つの世界なのではないでしょうか。奇妙に鮮やかな夢、しかも安らぐ夢です。

若い美人シスター・エディスと中年男ディヴィッドの関係性が妙な方向に行かないところが新鮮で清らかで、妙にホッとさせられます。人間味も感じました。

それこそ、一部『シャイニング』さながらのシーンもありますが、それも社会の底辺に落ちた人間の痛々しさの表現なので、まるでソドムとゴモラが復活したかのような、どぎつい刺激物の塊と化した昨今の映画産業の産物とは一線を画しております。

おそらく、はじめて映画館で映画というものを見た人類のようにずっとポカンとしていたと思います。クライマックスでは身を乗り出してました。人を無防備にさせる映画です。

これはパッと見て、パッと忘れるタイプの作品ではないなと思います。人類が絶滅しない間はずっと生き残るのでは。それくらいの作品だと思います。ちなみに原作は『ニルスのふしぎな旅』を書いたノーベル文学賞作家セルマ・ラーゲルレーヴの『幻の馬車』とのことです。

飲んだくれ男ディヴィッドが正装した途端に美形中年男性になるところが地味に好きです。たぶん俳優さんとしてはそっちが地なんだろうなと。
midored

midored