YokoGoto

殺人の追憶のYokoGotoのレビュー・感想・評価

殺人の追憶(2003年製作の映画)
4.5
<何度観てもしびれる秀逸な作品>『何度繰り返しみても裏切らない。むしろ、新たな発見があり深みが増す作品』がいくつかある。本作『殺人の追憶』もしかり。

初見はだいぶ前に観たのだが、あらすじや印象に残ったシーンの記憶は鮮明に記憶に残っていて物語の展開はわかっているのに面白い。

昨年、カンヌでパルム・ドールを受賞した映画『パラサイト』を観たばかりだったので、ある意味、本作を見直すことで新たに色んな側面を感じ取ることができた。

パルム・ドールをとった『パラサイト』に比べても、全体的に、なんとなくインディーズ映画風の雰囲気が漂う。今は、構図もカット割りも演出も洗練されていて、ハリウッド映画に近いポン・ジュノ作品になっている。それと比べると、もっともっと荒削りなのだが、実は『パラサイト』よりも熱量が感じられるのは何なんだろうか?

画全体からくる想いや迫力、役者の演技から伝わる物語への愛情のようなもの。本作でブレイクした出世作の映画なので、作品を作っていた頃は、監督および俳優の野心でメラメラと燃え上がっていたかもしれない。

とにかく、面白い映画を作りたい。
観客をアッと言わせたい。

そんな純粋な熱量がジンジンに伝わってくる映画なのだ。

もちろん、画作りは古いし洗練されていない部分も多い。しかし、物語の展開は絶品で、何一つ無駄なものが無く展開されていく所は見事と言うしか無い。

さらには、映画のタイトルも絶妙だ。
『殺人の追憶:Memories Of Murder』。
そうだ、追憶以外の何物でもないのに、観終わった後に残るリアリティと恐怖感。エンドロールが終わっても、どこまでもどこまでも追いかけてくるような不気味さ。まさに『殺人の追憶』なのである。

本作は、実際に起きた連続殺人事件をモチーフにしてポン・ジュノが書いたシナリオだ。どこまで史実に基づいているかはわからないが、被害者のいる事件の描き方としては、非常にデリケートにならざるを得ないのだが、その配慮は十二分に感じられた。それは、冷静に分析された捜査をしようとしていたソウルから来た刑事の後半の変化に現れている。

事件への憎しみややるせなさは、二人の刑事の生き様に投影し、それを観ている観客へと感情移入させるシナリオと演出。完璧だと思う。

新作の『パラサイト』にも盛り込まれていたユーモアだが、これは恐らく『殺人の追憶』の方がふんだんに盛り込まれている。連続殺人事件の謎解きをするサスペンスに親和性が無いだろうと思われるユーモアを、ここまで嫌味なく盛り込める監督のセンスも、もやは脱帽である。

そして、ユーモアは『パラサイト』よりも『殺人の追憶』の方がずっと面白い。

科学捜査が未熟だった、1980年代の田舎町の殺人事件の捜査。こんな杜撰な捜査で犯罪者を探していたのかと思うと愕然とする。

全く違う世界に生きていた物語のように感じたが、誰も責めることはできない。これも時代であり、諦めるしかないのである。それ故に、行き場の無い怒りが画面いっぱいに漂い、ラストシーンのソン・ガンホの表情と同じ気持ちで、観客も一緒に、あの殺人事件を追憶するのである。
YokoGoto

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