クロスケ

恋する惑星のクロスケのネタバレレビュー・内容・結末

恋する惑星(1994年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

【再鑑賞】
クリストファー・ドイルの自在なカメラワークが、中国に返還される前の香港の雑多な街を舞台に、刹那的な恋愛ゲームに興じる4人の登場人物たちを見事に切り取っています。

金城武、ブリジット・リン、トニー・レオン、そして、フェイ・ウォン。やけになってパイナップルの缶詰を口いっぱいに詰め込む金城武や恋人に去られて石鹸やタオルに話しかけるトニー・レオンのキュートな魅力も忘れ難いですが、フェイ・ウォンの存在の瑞々しさといったら映画の中でも飛び抜けています。
昔、何かの雑誌の記事で浅野忠信が「音楽をやっている人間の芝居のリアクションが面白い」と発言していたのを目にしたことがあります。おそらく、彼には当時パートナーであったCharaの存在が念頭にあって、交際のきっかけにもなった岩井俊二監督の『PiCNiC』での共演の経験がそう発言させたのでしょう。
彼の直感に従うならば、優れたシンガーであるフェイ・ウォンもまた芝居の中に音楽的なノリを与えることのできる特殊な役者なのかもしれません。

そもそも映画自体が音楽、とりわけポップミュージックの持つ求心力に賭けているような節があります。特にフェイ・ウォンとトニー・レオンのエピソードに入った途端、その傾向は顕著に現れます。フェイ・ウォンが働く店では四六時中、それこそしつこいくらいにママス&パパスの『夢のカリフォルニア』が流れ、フェイ・ウォン自身が歌う『夢中人』がここぞというシーンで効果的に挿入されます。
映画の中から数カットを切り取って、そのままミュージックビデオにでも出来そうなスタイリッシュさも、この作品の魅力のひとつであることは言うまでもありません。

警官を辞めて、店舗を譲り受けたトニー・レオンの元に、キャビンアテンダントの制服に身を包んだフェイ・ウォンが訪れるラストシーン。
地面を這うようなローアングルの画面にハイヒールの足元が映し出されるのと同時に『夢のカリフォルニア』が流れ始める。半開きになった店のシャッターを勢いよく開けるフェイ・ウォンを捉えた短いカットバックが素晴らしい。
こざっぱりとした制服姿のフェイ・ウォンとちっぽけな店の主と成り果てたトニー・レオンがカウンターを挟んで対峙する。相変わらず、大音量の音楽のせいで二人とも大声で話さなければならない。

出会ったときと立ち場が逆転した二人の鮮やかな対比が、その後に訪れる豊かな時間を予感させる見事な幕引き。
多感な時期に差し掛かった十代の私が夢中になったのは当然の成り行きでした。
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