カトキチ

恋する惑星のカトキチのレビュー・感想・評価

恋する惑星(1994年製作の映画)
5.0
1996年か97年だったか、香港返還のタイミングくらいでWOWOWが「香港満漢全席」というようなタイトルで一ヶ月に100本近く香港映画が毎日放送される企画があった。ぼくは幼稚園児のときからジャッキー・チェンに熱狂していたのだが、それ以外の香港映画はほとんど知らなかったこともあり、そのWOWOWで流れた予告映像がおもしろそうだったからいろいろ観てみようと思って片っ端からVHSの3倍録画機能でいろんな作品を録画した。

そこで当時武侠映画を復活させたツイ・ハークを知り、そのツイ・ハークの師匠筋とも言えるキン・フーを知り、カンフー映画一辺倒だったときに“香港ノワール”というジャンルを作りあげたというジョン・ウーを知った。

もちろんそれ以外にも言い出したら枚挙にいとまがないので割愛するが、そのなかで“香港ニューウェーブ”というくくりで登場したのがウォン・カーウァイの「天使の涙」とその同時期にNHK-BSで放送されたのが「恋する惑星」だった。

特に金属バットで頭殴られたような衝撃を受けたのが「恋する惑星」だ。

当時ゴダールもカラックスも知らない状態である。それがどのくらい衝撃的だったかは想像に難くないだろう。

ナンセンスギャグみたいなものを主軸にしていた有象無象の香港映画とは違い、まるで芥川賞を狙うかのようなソフトストーリー。なんてことない香港の街並みを鮮やかに活写した映像と共にクールに登場したブリジット・リン(ポリス・ストーリーのイメージしかなかった)。この若者何ヶ国喋れるん?と思った金城武。ベリーショートのフェイ・ウォン。「ハード・ボイルド」のカッコ良さはどこへやら、ブリーフで現れるトニー・レオン。そして洗脳する気なのかと思うほど流れる「夢のカリフォルニア」などすべてが新鮮だった。

ぼくがこの作品に関してずーっと解説や評論ができないのは、それほどまでに思い入れがあるということだ。

当時ネットは黎明期で、パンフレットもありとあらゆるところで探して購入した。ポスターもたまたま見つけてすぐ買った。VHSも買ってそのあとにDVDも買った。

ぼくは「恋する惑星」が好きだ。愛してると言ってもいい。

レビューというのは日本語で「評論」や「批評」を意味する。それでいうと、この文章はただの思い出の書き散らしでしかないだろう。

しかし、同じようにこの作品に衝撃を受けた人たちがいて、この文章に共感してくれる人もいるはずだろうと思い、恥を忍んでこれを28年かかって書いた。その想いを樽から寝かせたスコッチをじっくりと味わうのではなく、雑に炭酸で割ってごくごくとハイボールを飲むように流し読みしてくれると嬉しい。
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