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オルフェのmidoredのレビュー・感想・評価

オルフェ(1950年製作の映画)
4.5
こう言ってはなんですが、これはジャン・コクトーが自分の「男ミューズ」を主演に撮った元祖イケメン映画ではなかろうかと。

ギリシャ神話の吟遊詩人オルフェウスを1950年代のフランスに蘇らせた幻想的なお話で、逆回しや滑り台を使った特撮は今見ても充分に面白い。素っ頓狂な話運びとシュールな詩の朗読にはじめこそ面食らいましたが、どんどんお話に引き込まれました。

ラジオから死んだ詩人の声が届くとか、ゴム手袋の意外な使い方など、これが詩人の感性なのでしょうか、説明がなくても納得できるところはさすがのセンスです。アフリカのドラムの音云々のくだりも心底痺れました。

それでもやはり何より目立っていたのが、ジャン・マレー氏の男性美の際立たせっぷりでした。

このジャン・マレーという人、コクトーが描く古代ギリシャ風美青年そのままなんですね。よほど彼をモデルにたくさんデッサンしていたのか、それとも元から理想のタイプだったのかは知りませんが。この映画の中でも彼の荒々しさと優美さを合わせ持った肉感的な魅力を上手く映していたと思います。

オルフェと死神の情景も、一見すると男女ロマンス風ですが、これは『死と乙女』ならぬ生命の盛りにいる美しい若者を客体にしたエロスとタナトスの官能表現だと思います。男女ロマンスのガワを使ってホモエロティックな幻想を描くという離れ業。

「オルフェ」が迎えるエンディングにも贔屓的なものを感じてしまいました。ギリシャ神話のオルフェウスは狂乱した女たちの手によって八つ裂きにされたのに、彼はなんて幸せそうなのか。監督としては、美しすぎて「死」ですらこの男は殺せないのだ!といったところでしょうか。

今作において重要なモチーフである鏡には、当然、水に映る自分に恋をしたナルキッソスの意味合いも込められているでしょう。鏡にもたれて苦しげに顔を歪める姿がやたらと官能的でした。

そうなるとジャン・コクトーは己の「推し」にオルフェウスとナルキッソスというギリシャ神話で有名な美青年を同時に熱く盛り込んでいることになり、耽美と賛美のラーメン二郎みたいで素直にすごいなと思います。誰かを賛美するならこれくらいやって見たいものです。

作品世界の創造神として全力でオルフェもしくはジャン・マレーという男性を賛美したかったのでしょう。自分にはそう見えました。

他にも好みの男性を配役しているらしい一方で、総じて女性キャラクターの扱いが寒々しいあたりは、男性同性愛者の世界観以外の何物でもなしと言ったところですが、良くも悪くも嘘のつけないところは芸術家として好感を持てました。
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