半兵衛

暗殺の半兵衛のレビュー・感想・評価

暗殺(1964年製作の映画)
3.6
幕末という乱世を己れの実力と弁舌のみで立身出世しようとするも、結局は権力の手で握りつぶされる一匹狼・清河八郎の悲喜劇は松竹ヌーヴェルヴァーグのドラマにも通じる見えない上と闘う虚しさが。終盤幕府を騙して大量の浪人を集めて京へ上洛する大げさに威張った清河の仕草は時代に押し潰されようとする男の小さな抵抗のようで落ち目の芸能人のようなちょっとした悲哀を感じる。

カリスマ性と胡散臭さと人間臭さという矛盾だらけの主人公のキャラクターはまさに丹波哲郎にうってつけ、そんな彼と対峙するコンプレックスだらけの侍で清河を斬る使命を帯びた佐々木只三郎(後に坂本龍馬を暗殺することでも知られる)を演じる木村功もぴったりでドラマを大いに盛り上げる。

ストップモーションなど技巧を凝らした篠田正浩監督の演出はそれなりに見ごたえがあり、ラストのストップモーションの使い方もかっこいい。

幕末という時代があまりにも複雑すぎて今一つ話を理解しにくいという欠点はあるが、シャープな切れ味のある時代劇の佳作として仕上がっており歴史ファンにはおすすめ。

ちなみに清河八郎と奥さんとのテロリストの夫婦とは思えない人間味のあるエピソードも印象的だがこれも事実だったりする、そして相手は遊女という低い身分の女性にも関わらず「自分と結婚すると普通の生活は送れないけれど大丈夫ですか?」と何べんも手紙を送って慎重に相手の意思を尊重してなおかつ親の反対を押しきって結婚したという純愛エピソードがある。それほどまでに妻を愛していた清河が彼女が悲惨な死を遂げて愕然とするのも納得(牢に囚われていた妻が死んだ理由も彼女の始末に困った清河が所属する庄内藩が毒殺したという噂があり、清河が無謀なテロリストに走ったのもそれが理由ではないかと言われている)。
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